その日はいつもとは違っていた。
妙にそわそわする者、
辺りをうかがう者、
ワクワクする者、
悟りを開いている者、
若干殺気立つ者もいた。
中にはいつもと全く変わらない者もいた。

そんな二月の半ば、
つまりはバレンタインデーのことである。












彼女にとってそれは前進












「はぁ〜っ…」

放課後の教室で杏はため息をついていた。

「どうしたんだ杏?ため息なんてついて」
「あ、と、朋也・・・」

杏は急に朋也に話しかけられたため、かなり驚いていた。

「?」

そんな杏の姿を不思議に思いながら、

「それにしても、そのチョコの量はすごいな・・・」
「女の子のチョコ貰っても素直には喜べないわよ」
「そりゃあそうか
でも、一個も貰えない男に比べたらマシだと思うけどな」
「あれ〜どうしたの2人とも」

そんなところに春原がやってきた。

「別に何でもないわよ」
「ふぅ〜ん・・・」

そういう春原の顔は微妙に半笑いだった。
その目は杏の荷物の多さを見ていた。

「一体いくつあるんだろうね、そのチョコ」
「さあ・・・二桁はあると思うけどね」
「そんなに貰ってるのかよ・・・」
「そうよ・・・」

驚いている朋也と苦笑している杏。

「そういうあんたたちはいくつ貰ったのよ?」
「・・・・・・」
「うっ・・・」

そんな質問に男2人は黙ってしまった。

「べべべ別にチョコなんで欲しくないっっっっすよ」
「お前それすげー負け惜しみに聞こえるからな」
「・・・・・・ふっ」
「てめー杏、今鼻で笑ったな!」

そんな春原の叫びも負け惜しみにしか聞こえなかった。
と、そこで朋也はふとある疑問が浮かんだ。

「貰うことばっかり話してたから忘れてたけど・・・
杏ってさ誰かあげたい奴とかいるのか」
「――――!!」

その言葉に杏の顔が一気に固まった。

「・・・杏?」
「そそそそそんんな相手なんていいいないわよ」
「お前言語が春原レベルになってるぞ」
「杏はそっち系だから上げる相手なんていないんだよ」
「何だ、そっち系って?」

朋也のそんな疑問に、

「実は杏が好きなのはおんなごふっ!」

すべてを言う前に杏の辞書によって黙らされていた。

「はぁっ、はぁっ・・・」

春原の顔には無数の辞書が刺さっていた。
杏は朋也のほうを向いていた。

「聞こえた?」
「いや、何も・・・」

朋也はそう答えるしかなかった。

「それで朋也は誰かに貰ったの?」
「いや義理一個も貰ってないぞ
春原と同じ結果というのは悲しいことなのだが、
まあ、進学校のここでは俺達みたいな不良がもらえなくてもしょうがないけどな」
「ふ〜ん」

(まだ誰にも貰ってないんだ・・・)

「ねえ朋也」
「何だ?」
「もしよかったら・・・あたしがチョコあげよっか?」
「杏が?」

朋也は驚いた表情を見せた。
そんな朋也を見た杏は紅くしながら、

「か、勘違いしないでよ
もちろん義理よ、義理」
「いや、別にそういうことはないんだけどな」

そんな朋也の言葉に、

(ちょっとくらい勘違いしてくれてもいいじゃないのよ)

と心の中で拗ねていた。

「お、岡崎だけなんてずるいっすよ」

とさっきまで死んでいた(はず)の春原が復活していた。

「はぁ〜、しょうがないから
あんたにもあたしからど義理チョコをあげるわよ」

もちろん、『ど』を強調して言っていた。

「僕のはど義理なんすか!?」
「・・・別に今年もチョコゼロでもいいのならいいけど」
「あああ、ど義理でもいいですからください
でも、今年もって言わないでくださいよね!?」
「杏・・・お前悪魔だな」

朋也は小声で言った。

「何か言った?」
「いや、何にも言ってない」
「そう・・・」

もちろん聞こえていたが、聞こえていないふりをしておいた。

「はい、これ
味わって食べなさいよ」

そういって杏は朋也と春原にチョコを渡した。

「たとえ男女からだとしても、うれせぶしっ!」

春原は余計な一言を言って再び辞書をくらっていた。
そんな春原に朋也は一言、

「春原、お前アホだろ」
「親友に向かって酷いっすね・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・誰が?」
「僕の目の前にいる人ですよ」
「すまない、俺お前のこと人間と思ってないから」
「せめて人間扱いはしてくださいよね!?」
「ああ、それは今後の課題にしておく」
「あんた達相変わらずね・・・」

杏が呆れながら言った。

「ありがとな、杏」

朋也の言葉に杏は少し赤くなりながら、

「べ、別にお礼なんていいわよ
あげたいからあげたんだし・・・」

後半の言葉は小さかったため、朋也には聞こえなかった。

「ボチボチ帰らない?」
「ん、ああ、そうだな」

そういって朋也と春原は帰ることにした

「!ぼ、僕は先に行ってるよ」

そういって春原は先に走っていった。
その直後、

どどどどどど―――

「何処行きやがった、春原はああぁぁ――っ!!」

数名のグループが走り去っていった。

「あいつ何したんだ?」
「さあ・・・」
「って俺も帰るんだった
それじゃあな、杏」
「え、ええまた明日ね」

と朋也の足が止まった。

「どうしたの朋也」
「そういえば・・・」

朋也が何かを思い出したようにつぶやいた。

「ホントはこのチョコ誰かにあげるつもりじゃ無かったのか?」
「えっ、・・・なんでそう思ったの」
「・・・いや、ただ何となく気になっただけで他意はない」

そんな朋也の態度がちょっと嬉しかった。

「気にしなくていいわよ
それにあげたかった相手にはちゃんとあげたし」
「えっ、それって誰なんだ?」
「気になる?」

朋也はそう言われてから少し考えて、

「まあ、多少は・・・な」
「・・・そう、でも教えてあげないわよ」

嬉しそうな顔をしながら言った。

「それじゃ、あたしも帰るね
また明日ね、朋也」
「ああ・・・って俺も帰るんだけど」

朋也は一人取り残されていた。

「・・・さっきまでのため息は嘘じゃなかったのか?」

朋也は唖然としながらそういった。






杏は一人で坂を下りていた。
その顔は先ほどため息をついていた人物とは思えない顔をしていた。

(今日はしたかったことも出来たし・・・)

そう、ため息の原因はある人に渡したいものが渡せなかったからであった。
それはついさっき達成できた。

―――あげたかった相手にはあげたし―――

その言葉は杏にとって一歩前進した証でもあった。
そして、いつかは何も隠さずに伝えたい、



  好きと言う言葉を



(でもさっきので少しは気付いて欲しかったけど・・・
まあ、朋也らしいといえばらしいんだけどね)

そんなことも同時に思った。



















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 杏「まあ、駄作ね」
 朋也「駄作にも失礼な作品だな」
 杏「あんたにこういう話は無理だと改めて分かったわね」
 朋也「しかも終わり方も締まってないしな」
 TK「・・・_| ̄|○」
 杏「こんな作品を読んでくれてありがとね」
 朋也「この作品は黒歴史化だな」
 杏「3分以内に忘れないと厄災が降りかかるわよ!」
 TK「あんたら酷い言いようっすね!?」


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