好奇心は時として身を滅ぼす












それは昼休みの春原の一言からだった。

「ねえ岡崎」
「何だ?」
「杏ってさ、いつも何処から辞書を出してると思う?」
「!っぅ」

思わず喉にパンを詰まらせて死ぬ所だったぞ。

「春原・・・お前すごい命知らずな発言だと思うぞ」
「えっ!? そう?
何で今まで疑問に感じなかったんだろうと思うよ。
岡崎もよく考えて見ろよ」
「つーかお前、疑問に感じたことなかったのかよ・・・
俺にとってはお前のその鈍さのほうが疑問に感じるぞ」

やはりこれもヘタレの能力の一つなのだろうか・・・
奥が深いな、ヘタレ。

「で、何でそんな事調べようとしてるんだ?
悪いことは言わない、止めておけ」
「でも、岡崎だって知りたいでしょ?」

そりゃあ、知れるものなら知りたい。
が、どう考えてもリスクが高すぎる。

「いや、俺は遠慮しておく。
やっぱり命は惜しいからな」

春原は溜め息をついて、

「そんな事いうなよ〜。せめて僕の理論だけを聞いてから決めてくれよ」
「まあ聞くくらいならいいだろう」

こいつのスカスカの脳みそでたどり着いたという理論に
ほんのちょっと興味があるしな。

「んでお前の理論だと、杏は何処から辞書を取り出してるんだ?」

春原は不敵な顔をしながら、

「ふふふ・・・ずばり」
「ずはり?」
「異空間からですよ!!」

自信あり気に答える春原。
ああ、痛い人間を見るとどうしてこうも悲しくなるのだろう。

「あれ?僕の理論、間違ってますか?」

理論というかお前の脳みそがな。
それはあえて言わないでおく。

「何でその結論に達したんだ?」
「考えて見てくれよ。
どんな服装、体制からでも辞書を取り出してるんすよ
これはもう異空間から持ち出してるとしか思えないね」

その意見については俺も納得できる所もあった。
だが、大きな問題点が残っている。

「それで―――それをどうやって証明するんだ?」

本人に聞いて教えてもらえるわけないしな。

「ふふふ・・・それを解明することが今回最大のクッションですよ」
「クッションじゃなくてミッションだからな」
「つまりは何もない所から辞書を取り出す瞬間を見ればいいんでしょ?」
「何もない・・・ってそれってもしかして」

俺の中である一つの嫌な考えが浮かんだ。

「そうっすよ! 杏が一糸まとわぬ姿をしているときに証明されるんですよ!」

あまりの破天荒な考えに、言葉が出なかった。
ちなみにそんな発言に何もツッコミが無いのは、
今いる場所が屋上でしかも偶然にも誰もいなかったからだ。もしいたら、
俺も春原と同類に見られるという羞恥プレイが待っていたぞ。
とりあえず、春原に一言だけ言っておきたかった。

「ついにこの世が嫌になったのか?」
「それってどういう意味っすかね!?」
「命は粗末に扱うなと言うことだ。
つーかそれ犯罪だろ」

しかし、そこで一つの考えが浮かんだ。

「・・・そうか! 畜生だから罪に問われないのか!」
「畜生扱いはあんまりっすよね!?」

結局、俺も春原の作戦についていくことにした。






夜になり作戦実行のため、杏の家に向かった。
ちなみに俺は詳しくは知らないので、春原のあとを追う形になっている。

「言っとくが、俺は途中までしかついて行かないからな」

さすがに犯罪には加担したくない。
遠くから絶命しないことをほんの少し祈るだけだ。

「それで十分っすよ。
あとは僕の力でどうにかするっすよ」

春原の力・・・ああ、ミジンコにも勝てなそうな貧相な力か。
といつの間にか藤林家の前に来ていた。
表札にはバッチリ『藤林』と書かれていた。

「じゃあ、僕は調査に行ってきます!」
「春原・・・グッドエッチ!」

俺が親指を立てて見送り、春原は何処かに向かっていった。
ちなみに住居不法侵入罪である。

(さて・・・俺は今からどうしようか)

春原を置いていくのもいいのだが、
万一のことも考えると、放置はしておけない。
しかし、こんなところでボーっと突っ立ているのも如何なものか。
春原の前に俺が不審人物になってしまう。

(今更だが、撤退したほうがいいんじゃないか?)

こんなところで杏に会ったら、
場合によっては、春原の前に俺が死んでしまう。

(・・・そうだよな、命は大事だよな)

今更だがとそう思いながら帰ろうとすると、

「朋也、こんなところで何してるのよ?」

ばったり杏に遭遇してしまった。
見たところ何処かに出掛けた帰りみたいだ。そんなことより、

(・・・俺、死亡フラグ立った?)

いや、それは不味い、不味すぎる!
ここは強引にでも誤魔化さなければ!

「こ、こんなところで会うなんて偶然だな・・・
あれ、ここって杏の家だったんだな〜、初めて知ったぜ」
「・・・・・・朋也、正直に答えなさいよ」

ああ、明らかに殺る目です。
これ以上言い訳した瞬間、俺をあの世に導く辞書が飛んできそうだ。
・・・春原スマン。
お前の命より自分の命が大切だからな。

「分かった、正直に話そう。
ずばり杏が何処から辞書を出すかという調査に来たんだ。
春原主導でな!」

最後の部分は一番重要だ。
俺への被害を最小限に食い止めるために。

「ふ〜ん・・・で、その主犯格は何処行ったのよ?」
「ん、あっち側に行ったぞ」

俺が指を指した先を見て、

「・・・朋也、それホント?」
「ああ、そう―――」

杏の顔がまさに鬼の形相になっていた。
いや、あれは鬼さえも敵前逃亡しそうな顔だ。

「ふふふ、陽平・・・覚悟しなさいよ」

そういいながら春原がいるであろう先に向かっていった。
その姿はまさに死神といっても過言ではなかった。

『春原くん、こんなところで何やってるんですか?』
『ちょっと調べごとをしてるんすよ。』
『ふ〜ん、調べごとね・・・』
『ってきょきょきょきょ杏!!』
『陽平・・・遺言はある?』
『え、これはほんのちょっとした調べ事のために・・・』
『熱心な事ね、陽平。
でもね、やっていいことと悪いことがあるのよ』
『ぼぼぼ僕はまだ何もやってませんよ』
『まだってことはこれからするつもりなのね。 それ以前に・・・こんなところにいる時点で私刑決定よ!!!!』
『ひぃ!!!
そんな大量の辞書受けたら、死んじゃいますからね!?』
『一回どころか、何度でも殺してあげるわ!!!』
『ひいいいいぃぃぃぃ――――・・・・・・・・・』

しばらくして春原の悲鳴と鈍い音が聞こえなくなった。

「全くこの馬鹿は・・・」

そして戻ってきた杏が引っ張っていたのは、
元・春原と言うべき物体A(仮)であった。

「朋也、これとりあえず寮まで運んどいてね」
「あ、ああ・・・」

どうやらこれ以上いると俺も巻き添えになって死ぬかもしれないので、
退散することにするか。

「なあ杏、ひとつだけ聞いていいか?」
「何よ」
「ずばりさ、お前何処から辞書取り出してるんだ?」
「・・・教えて欲しい?」

こっちを見ながらいってきた。
それに対し、答えようとしたが、

「って教えるわけないじゃん!」

とあっさり返答してきた。

「お前、最初から教えるつもり無かっただろ」
「そうよ」

こういうオチだと思ったよ。

「もう夜も遅いんだからさっさと帰りなさいよ。
ホントに不審者扱いされるわよ」
「それは嫌だな・・・
それじゃ、さっさと帰ることにするか・・・」
「ちゃんとその粗大ゴミも指定の位置に戻しておきなさいよ」
「ああ、分かってる」

この粗大ゴミを持ってくのか・・・メンドイぞ、正直。

「じゃあ、頑張ってね朋也」

そういって家の中に入っていった。

「・・・さて、帰るか」

それを引きずりながら帰っていった。







次の日・・・

「岡崎、おはよう」
「もう4時間目だけどな」

春原は何事も無かったかのように登校してきた。
一応聞いておくか。

「おいヘタレ」
「それって僕のことっすか!」
「お前、大丈夫なのか?」
「え、何がっすか?」

春原は何のことか分かってないみたいである。

「だって昨日あんなに杏にコテンパンにされたじゃないかよ」
「え? 昨日杏にあった記憶なんて無いんですけど?」
「はっ?」

どういうことだ、あれは俺の夢だったのか?
もしかしてこいつ・・・

「春原、お前昨日何してたんだ?」
「昨日? 確か・・・」

としばらく考えて、

「何してたか覚えてないね。
多分、たいしたことはしてなかったんだよ」
「あー・・・」

あまりに辞書をぶつけられ記憶が飛んだみたいだな。

「何だか哀愁の目で見られた気がするんですけど?」
「気のせいだ」

気のせいということにしておこう。
しかし、それが間違いであったことをすぐに悟った。

「それより岡崎」
「何だ?」

そう、このあとの台詞を聞いて。

「杏って聞いて今ふと思ったんだけどさ、


杏っていつも何処から辞書を出してると思う?

「・・・・・・・・」




また、波乱の一日が始まるみたいだ。
というかこれってループするのか。

それ以後、一週間ほど春原が杏に撲殺される日々が続いた。



















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 TK「勢いで書きました。
   反省はしてません!」
 陽平「というか、僕ろくな目に遭ってませんね」
 朋也「そうだな・・・」
 TK「そういえばさ、椋に聞くって選択肢は浮かばなかったの?」
 陽平「・・・それっす! 椋ちゃん――!!」
 椋「何ですか?」
 陽平「杏の辞書って何処から出してるの?」
 椋「!!!!!」
 朋也(何だ、この焦り様は・・・)
 椋「わ、私は知りませんから!」
 陽平「って待ってよ椋ちゃん!」
 杏「あんた椋に何したのよ!」
 陽平「え、何もしてないですよ」
 杏「ちょっとこっち来なさい!」
 陽平「助けてよ、岡崎!」
 朋也「それじゃ、このあたりで終わりとするか」
 TK「そうですね・・・」
 陽平「って無視ですか!?」
 
 ―――その後、陽平の姿を見たものは誰もいなかった―――



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