好奇心がなくとも身は滅ぶ













「・・・」

俺は春原をジーッと見ていた。

「おい岡崎、あんまり見つめないでくれよ?
もしかして僕に惚れちゃった?」
「・・・・・・フッ」
「あんた今物凄く小さく嘲笑いましたね!?」

どうやら気付いたみたいだ。
このツッコミどころを的確にかぎつける能力、さすがだな。

「傷ついたか?」
「物凄く傷つきましたね!」
「分かった、さっきのは訂正しよう・・・
あ――――っはははははは!!
お前に惚れるって・・・マジあり得ね―――っ!!!
腹がよじれそうだぜ!!」

「そこまで言わなくてもいいよね!?
しかも何も訂正されてませんよね!?」


さすが我がヘタレ相棒、突っ込みにキレがあるぜ。
お笑い芸人になれる日もそう遠くないだろうな。
まあ、相棒は自分で探してくれ。
俺は勘弁だからな。

「それで本当になんで見てたんすか?」
「まあ、ちょっとな・・・」
「もし何か悩み事とかあるのなら僕が相談に乗りますよ?」
「お前、吐血しそうなくらい察しがいいな
「いくらなんでも吐血は言いすぎだよね!?
せめて不気味とかにしといてください」

それもどうかと思うぞ。

「それで何なんっすか、一体」

ちょっとスネ気味に言う。
そんな姿が気持ち悪いと思った。

「まあ、正確には悩んでいるわけではなく疑問だな」
「何なんっすか? その疑問って」
「ああ、それは杏と智代が関係してるんだが・・・」

そういうと、春原は冷や汗を垂らしながら、

「その二人の名前が同時に出てくると、
僕としては物凄く嫌な気がするんですけどね」

さすが春原、お前の危険感知能力は相当の高さだと思うぞ。
ここ一番では役に立っていないがな。

「そんなこと無いぞ、ただ
杏の辞書の威力と智代の蹴りの威力、どっちのほうが高いのかな〜と思っただけだぞ?」

俺の発言にクラス全体の時間が一瞬止まった気がした。
いや、止まったに違いない。

「とんでもなく物騒なこと考えてましたね!?」
「そうか? 一度でもあれを見たことがある人物なら誰でも気になる疑問だと思うぞ」
「そんな危険なこと、普通の人は考えませんから!」

まあ、それには納得だ。
俺だって杏や智代がこの教室にいたら思っていても決して言わない。

「でもな、さすがにそれを自身の身で試す勇気は無いんだよな・・・」

といいながら春原を見た。やはりこいつしかいないだろう・・・
俺の期待の視線に気付き、

「もしかして僕でそれを実証しようとか考えてないでしょうね?」
「え、そのつもりだぞ?」

それ以外の方法なんて浮かぶはずないだろ。

「そんなことはお断りですから!」
「お前ってそういうこと大好きだと思ってたぞ?」
「僕はいたってノーマルですから!」
「そうだったのか・・・」

驚愕の事実だった。
世の中にはまだまだ俺の知らないことが一杯なんだな。
春原をすることなんてこの世の人間、いや生き物にさえ無理なことだろう。

「仕方ない、この方法はやめてお前の実体験から推測するとしよう・・・」
「ってせめて最初からその方法にしましょうよね!」

というかこのことを調べることについては同意でいいのか?

「分かってないな〜、春原。
それじゃあ面白みに欠けるだろ?」
「僕的には面白みとか一切求めてないですからね!」
「まあ、それは100億歩譲って我慢してやろう・・・
で、実際のところどうなんだ?」

春原は目を瞑りながらしばらく推考していた。
・・・春原ほど考える姿が似合わない生き物がこの世にいるだろうか、いやいない。

「って人がせっかく渋々考えているときに 反語まで使って人の姿にケチつけないでくださいよね!」
「春原、お前反語って言葉知ってたのか!!!」
「それはいくらなんでも驚きすぎですよね!?」

いや、間違いなくそのことにはクラスにいる人物、
いや宇宙に存在する生命体すべてが納得だと思うぞ。

「それでどうなんだ、春原的には」
「・・・・・・どっちも最強ってことでいいんじゃないですか」

冷や汗をかきながら答える春原。
その痛みを思い出しているのだろう。

「はぁ〜、それじゃあ問題は解決してないだろ」

春原の記憶なんかに頼ったのは失敗だったな。
やはりここは・・・

「何かすごく嫌な気がしてきたんですけど・・・」
「気のせいだろ?
間違っても今から実際に喰らってもらって確かめようとか思ってないぞ」
「その顔は明らかに思ってますよね!?
でも、いくら杏と智代でも何の理由もなく
辞書を投げたり、蹴りを入れたりする事は無いね」

まあ、春原のいうことも最もであろう。

いくら春原が人外のヘタレであったとしても、
杏や智代も何の理由もなくやる可能性は低い。
(ゼロではない、そこが春原の春原たる所以)

しかし、それをいとも簡単に克服するのが、
春原がヘタレでもある所以である。

「何話してるのよ、あんた達」

そんな事を考えていると、最高のタイミングで杏がやってきた。

「ああ、こいつが
『杏の辞書の威力なんてね、
桜の花びらが顔に当たったときの痛みくらいだね』

って言ってたんだよ」
「そんなことこれっぽっちもいtt―――」

その瞬間、辞書が駆け抜ける音と共に
春原の顔面が新月に限りなく近い三日月みたいに変形していた。
というか顔の体積の半分以上が消えている気がするんだが・・・

「今度そんなしょうもない事言ったら消すわよ!」
「僕そんな事言ってませんからね・・・」
「まあ、こうなるのがお前の人生そのものなんだよ・・・」
「そんな人生嫌ですからね!?」
「今の轟音は一体何なんだ?」

そこに智代もやってきた。
どうやら春原の顔面に辞書が当たったときの音はかなりのものだったようだ。
現にこの階にいないであろう智代にまで聞こえているのだから。
まあ、俺としては願っても無い最高の展開だ。

「生徒会長さん、聞いてくださいよ。
あの女が僕に音速を超える辞書を投げたせいでこんなことに・・・」

春原が必死に訴えている。
とりあえず、そんな顔で話してるとキモイ。

「・・・お前の顔は元々そんな顔ではなかったか?」
「こんな顔の人間は存在しませんからね!?」
「いや、現に目の前にいるんだが・・・」

智代の言うことももっともだ。
ちなみに春原の顔を見てから智代はちょっとひいていた。

「実は最近イメチェンしたんだよな」
「こんな命がけのイメチェンは嫌ですからね!?」
「とっても似合ってると思うけど」
「私もそう思うぞ」
「あんたら絶対そんな事思ってないでしょ!」

こんな顔にしてしまった張本人(ん、それは俺なのか?)と
たった今来た生徒会長の発言に
春原の抗議の叫びが響いた。
が、そんな抗議はスルーして智代がたずねてきた。

「で、本当は何があったんだ?」
「このヘタレが馬鹿みたいな事言うから、天罰を与えてやったのよ」
「一体どんなこといったんだ?」
「あたしの辞書の威力が大した事ないって言ったのよ」
「ついでに智代の蹴りは
バッタの体当たり並みだって言ってたな・・・」

「ってそれはあんたが勝手に捏造s―――」

春原の反論の最中、鈍い音とともに、
春原の身体が先ほどの顔と反対方向に曲がっていた。
春原の顔から上半身がS字に曲がっていた。

「なら仕方ないな」

蹴りを入れた智代が答えた。

「いや、それはどう考えてもおかしいよね!?」
「「「えっ!!?
どう考えてもおかしくない(だろ)(わよ)(だろう)??」」」

「あんたたち常識って文字、辞書で引いてみろよ!」
「いや、お前には常識って言葉似合わない・・・だろ?」
「『それがカッコいいんだよ』って顔で言わなくていいですから!」

お前に常識という言葉は
杏に清楚という言葉が言葉が似合うのか?と聞くのとは・・・
さすがに比べられないな。悪かった、杏。

「しかし、一向に反省の色が見られないわね」
「そうだな・・・」

何やら物騒なことを考えている杏と智代。
まあ、俺としては最高のシナリオかもしれないが。

「こうなったら智代、同時に喰らわせてあげましょ?」
「それはいい案だな・・・」

そういうと、智代が春原の背後にすばやく回りこむ。
杏が辞書を投げ込む。
そして、投じられた辞書が当たる寸前、智代の蹴りが放たれた。

「ひいいいいぃぃぃぃ――――・・・・・・」

杏の辞書と智代の蹴りが春原に命中した瞬間、
何故かこの教室はまぶしい光に包まれていた。







「お前ら〜、席に付けよ〜」

午後の最初の授業の教師がやってきた。
杏と智代は既に自分のクラスに戻っていた。

「ん〜? 春原はどうした?
午前中は居たようなんだが・・・
岡崎、春原が何処行ったか知らないか?」
「いや、知らないんだが・・・」

まあ、嘘は言ってないよな。

「他のやつは知らないか?」

一応、他のクラスメイトにも聞いたが誰もが首を振った。
その心中はおそらく俺と同じであろう。

「そうか・・・あいつは早退ということにしておくか」

そういうと、その教師は授業を始めた。



あのあと、光が収束すると春原は何処にもいなかった。
あの光と共に何処かに消えてしまったのか・・・
それは誰にも分からなかった

(まあ、春原だし・・・いっか)

しかし、ひとつだけ悔やまれることがあった。


結局、俺の疑問は解けなかったことだ。














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 陽平「って僕どうなったんですか!?
    というか今話してる僕って誰?」
 TK「さあ?」
 陽平「さあ?ってあんた無責任ですよね!?」
 TK「誰も君の行方なんて気にしてませんよ(゚∀゚)
    君が消えたことに喜びを感じているくらいですよ」
 陽平「そんな殺生すね!?」
 TK「仕方ない・・・
    何処かの時空の狭間みたいな空間に飛んでいったことにしておこう
 陽平「とんでもなく槍投げな発言ですね!?」
 TK「ではこの辺りで〜」
 陽平「しかも僕放置っすかΣ( ̄□ ̄;)」



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