真夏の喧嘩とバカップル














「岡崎見てみろよ、この素晴らしき光景を!」
「・・・・・・あ?」
「あんたそれでも男っすか!?」

いきなりだが、こいつのハイテンションにはついていけない。

現在、2限目である。
このヘタレがこんな時間に学校にいること自体がおかしい。
ヘタレがいる理由、それは・・・

「だって水泳っすよ、しかも男女一緒ですよ!
こんな暑い中、学校に来る理由なんてこのためだけって言っても過言じゃないね」

確かにこいつは水泳がある日だけは学校来るのが早い気がするな。
己の欲望のためとなると、無駄に頑張る奴だな。
この情熱ををもう少し他のことにも活かしてほしいものだ。

「いいね〜、スクール水着! 最高っすね!! ハァハァ」
「お前、その台詞はいろんな意味でヤバいからな」

もしもこれが部外者だったら、即効で警察に連絡する。俺ならそうする。
もちろん今もいつ連絡しようか考えている最中である。
現在は自由時間であり、春原は少しでも水着を拝もうと一番見えるであろうポジションに待機している。言うならば男女の境目のレーンにいる。
俺はそんなヘタレを可哀想な目で見ながら隣に居る。
・・・決して見たいわけじゃないぞ、こいつの犯罪抑止のためだ。

「それにしても最近の女の子は発育がいいよね〜」
「完全にエロ親父の発言だからな。 あと何気に前かがみになるな」

ああ、一部の女子がこっち見てるよ。明らかに卑下している目で。
そんな目が俺にも及んでいないことを切に願いたい。改めて言うが、俺は違うからな。

「ちょっとあんた達、そんなところで突っ立ってるんじゃないわよ!
他の女の子が怯えているでしょ! あと、変な目で見てるんじゃないわよ!」

そんな俺たち二人組――春原と俺を一緒にするのは嫌だな――のほうにやってきたのは杏だった。

「俺は止めようとしたんだぞ・・・」

俺の無実だけはあらかじめ言っておく。

「実際に止めなきゃ意味無いわよ・・・って陽平、何処見てるのよ」
「・・・・・・ふっ」

何故か勝ち誇った顔をしながら笑う春原。

「何よ、その顔は」
「いや〜、杏には同情しちゃうよね」
「・・・どういうことよ」

杏の背後からは若干殺気が放たれていた。
俺は春原が先ほどからチラチラと他のほうを見ていることに気付いた。
その視線の先を俺も見てみると、

「・・・・・・!」

その先のプールサイドには椋がいた。
俺が見ていることに気付くと、顔を真っ赤にしながら慌てて口までプールに潜ってしまった。

(・・・もしかして、な・・・)

と否定しようとしたが、このアホの考えることだ。残念ながらそれなのだろう。
だいたい、春原の杏への視線の向きでだいたい察知できる。というかそんなに直視するな。

「・・・・・・ふぅ〜〜〜〜ん・・・」

どうやら春原の考えが分かったのか、先ほどよりも放たれる殺気というオーラが増した気がした。
ところが春原はそこんところが分かっていないみたいだ。
今日に限って死の予感を鋭敏に感知するヘタレサーチはエロ脳のせいで鈍っているみたいだ。

「はっきりいってみたらどうかしら?」

杏の最終警告であろう発言にも気付いていなかった。

「椋ちゃんと同じ遺伝子を持っているのに、何で杏って胸ぐへぼしっ!」

春原の顔面には・・・ビート版がめり込んでいた。そのビート版って鉄製とかじゃないよな?
そんなめり込み方はあり得ないぞ。

「そんなもんどっから出したん―――いや、何でもない」

今は少しでも刺激を与えないようにしないとな。
ここでうっかり口を滑らせたら、俺も隣でドザエモン状態になっている春原と
同じ末路をたどることになってしまう。
ここは慎重に行動しないと―――

「・・・朋也も何か言いたいことでもあるの?」

不機嫌な顔で聞いてきた。しかもやたらと平淡な声で。

「いや、別に無いぞ」

これは嘘ではないぞ。だからそんな疑ってます、という冷めた目で俺を見るな。

「・・・・・・分かったわ、信じておくわよ」

しばらくのだんまりの後、そういって俺たちから離れていった。
・・・俺って何か悪いことでしたのか?
明らかにとばっちりを受けたような気分だ。もちろん、今の杏にそんな事言っても意味無いだろうが。

「・・・・・・」

とりあえず、のびている春原をプールの中に沈めて頭を足で押さえつけておいた。
1分ほどしたら、俺の足をかいくぐり浮上してきた。

「あんた殺す気っすか!?」
「幼稚園児がよくある遊びの一つだって。お前遅れてるな」
「こんな一歩間違ったら殺人事件になるような遊びがあるわけ無いですよね!?」
「ちっ、よく分かったな」
「あからさまな舌打ち!?」

春原を弄りながらも考えているのは杏のことだった。

「岡崎、杏のことでも考えてたの?」
「お前のせいでな」
「僕からは何にもいえないけど・・・後は岡崎の力次第だと思うよ」
「・・・いや、後とかじゃなくてどう見たって最初から全部俺の力次第だろ」
「えっ、僕の力は入ってないんですか?」
「問題外だろ。だいたいお前のせいで俺が無駄な力を使う羽目になってるんだからな」
「僕を褒めるのがそんなに恥ずかしいからってそんな風にいわなくても・・・」
「お前、分かっていたがある意味凄いな・・・」

駄目だ、今更なのだがこいつはあほ過ぎる。
このヘタレへの恐怖の制裁は後々に杏と共にゆっくりと考えることにしておこう。







昼休みに俺は隣の教室に行ったのだが、今日は既に居なかった。
他のクラスメイトに聞くと、何処かにいってしまったらしい。
う〜ん、話すことも出来ないとどうしようもないな。

「あれ〜岡崎くん、彼女に嫌われてしまったのかい?
じゃあ僕と一緒に購買にぼへぼぐしぶごがしっ!」

俺のマッハパンチを今発言したアホに注ぎ込んでやった。
俺にもこんなすごいパンチが出来たのか。

「ってあんたのせいで僕の顔が悲惨なことになってるんですけどね!?」
「そうなった理由を自分の胸に当てて考えてみろ!」

そもそもお前があの時あんな発言をしなかったらこんなことにならなかったんだよ。
だがそんな過去に起きたことを穿っても仕方が無い。
なぜならこのままじゃ腹が減って死んでしまいそうであるからだ。

「春原、今日の昼食はお前の奢りだからな」
「何でっすか!?」
「あぁっ!?」

ギロッ!

「ぜ、是非奢らせてもらいます」

俺の睨みで春原はそそくさとパシリに行った。相変わらず弱いな。

「俺の分もちゃんと忘れるなよ〜」

というわけで久々に購買のパンでの昼食となった。人の奢りで食べるってのはいいもんだ。
今回の場合は俺にとっては慰謝料だがな。しかし・・・

「何か物足りないんだよな・・・」

別に購買のパンが美味しくないわけではない。
となると、やはり考えられるのは・・・

「岡崎さ〜、早く杏のこと探しに行った方がいいと思うよ」

お前に言われるのは物凄い癪なんだがな。
とはいってもこいつの言っていることも正しい。

「ちょっとふらついてくる・・・」

我ながらバレバレな言動だな。

「・・あっ、一つ遣り残したことがあった」
「何すかぼっ!」

俺のミドルキックが見事に座っていた春原の鳩尾に命中したみたいだ。

「俺からのありがたい御褒美だ。遠慮なく受け取っておけ」

死にそうな声で抗議する春原を尻目に教室を出た。
まあ、あいつはあのくらいじゃ死にはしないだろ。
帰ってくる頃にはケロッとしているだろう。







校舎内をしばらく探すと、杏を見つけた。
そこは中庭だった。かつて俺と杏が結ばれた場所・・・
俺は無言で杏の近くに立っていた。

「・・・お前、そんなに食べると太るぞ」

杏の前には2人分の弁当箱が並んでいた。
そのうちの1つはかなりの量だ。俺がいつも食べている量だ。
杏一人で食べるには至難である。
俺は杏の真正面に座った。

「・・・何よ」

俺を睨みながら答えていた。こりゃ静かに、だが物凄く怒ってらっしゃるわ。

「そろそろ機嫌直してくれよ、今回は俺が悪かったから・・・」
「別に機嫌が悪いわけじゃないから、謝られることもないわよ」

ううむ、なかなか手強い。

「あれはだな・・・春原が何見ているのかな〜と思って見たらたまたま椋がいただけで―――」

と俺はそこまで言い訳して気付いた。
どう考えても俺の言い訳は状況を悪化させる発言だった。

「―――っ!」

杏が弁当のおかずを敵を噛み砕くかの如く食べていた。

「・・・そんな風に食べてて美味しいか?」
「美味しいわけないでしょ」
「そんなに食えるのか?」
「こんなに食べれるわけないでしょ、余分な脂肪が付くだけだし。
でも残してもしょうがないから食べるのよ」

この強情なお嬢さんには口で言ってもしょうがないな。
俺は無言で置いてあったもう1膳の箸を手に取った。
そして杏の了承も取らずに勝手に弁当のおかずを食べていた。
俺の行動に杏は一瞬唖然とした後、

「何勝手に人のお弁当食べてるのよ!」
「別に・・・ただこの美味しそうな弁当が残るというのはもったいないから俺が食べているだけだ。
だいたいせっかくの弁当もそんな顔で食べられたら可哀想だからな、俺が味わって食べてやる」

そういいながら、次のおかずに手を伸ばし食べる。

「それにしても・・・お前の弁当って・・・ホント美味しいな」

暫し俺のほうを見ながら沈黙していた杏も口を開いた。

「・・・・・・分かったわよ、どうせ一人じゃ食べれなかったからあんたにあげるわよ」
「サンキューな。さっきパン食ってたんだが、どうも物足りなくてな・・・
やっぱり美味いものを食べるのが一番だな」

俺は杏の一つの弁当箱を食べていた。とさっきから杏の箸が止まっている事に気付いた。

「杏は食べないのか? 俺が全部平らげてもいいのか?」
「えっ? べ、別にいいわよ。もうあたしおなか一杯だったし・・・」
「んじゃ、遠慮なく・・・」

結局、弁当箱一つ丸ごと俺が頂いた。

「・・・朋也、こんなに食べて大丈夫?」
「このくらい普通だって」
「でも、あたしのお弁当を食べる前にパンも食べてたんでしょ?」

実はかなり辛かった。5時間目の授業は消化活動に全力を注がないといけないな。

「・・・はぁ〜、朋也ってそういう性格だったわね」
「それは違うぞ、好きでもないやつには俺は冷たいぞ」

春原とか陽平とかヘタレとかな。

「・・・朋也、さっきの体育の時間、陽平と同じような事考えてたわよね」

いきなり話題が変わり、本題(?)に入った。

「まあ、遠からず近からずってところだ・・・」
「・・・そう」
「でも、俺は別にな・・・」
「分かってるわよ、朋也の考えてる事なんて。
あれはあたしが勝手に思い込んで勝手に怒ってただけなんだし・・・」
「でも俺があそこではっきり言ってれば何の問題も無かったんだし・・・」
「「・・・・・・」」

しばし沈黙し合っていた。

「・・・はぁ〜、何であたし達こんなことになってるのよ」
「というかお互いに勘違いってやつか?」
「そうみたいね、何だか笑えてくるわね。
これじゃあ何だか意味の無いことで喧嘩してたバカップルみたいじゃないのよ、あたしたちって」
「別にそれでもいいんじゃないのか? それにお前も満更じゃないだろ?」

それくらいは杏の表情を見ていれば分かる。
さっきと表情が180度違っているからな。

「朋也とバカップルだったらあたしは嬉しいくらいよ」
「・・・お前そこまではっきり言うと、バカップルというかただのバカの発言だと思うぞ」
「あ、あんたそれ自分の彼女に言う台詞じゃないわよ!」
「ま、いいんじゃないか? 俺もバカみたいなもんだし」
「あんたがバカってのは前から知ってたわよ」
「彼氏をバカ呼ばわりするなよ!」
「あたしは朋也がバカでも全然いいもんっ」
「ってこんな所で抱きつくな、暑い!」

ここは真夏の外、しかも真昼間だ。だが、杏は全く離れる気はないみたいだ。

「嫌よ、今日の昼休みは朋也といた時間が短かったから。
それに朋也だって嫌じゃないでしょ?」
「そりゃあな」

好きな女の子に抱きつかれて嫌な男はいない。

「でもな、さすがにこんなところではな・・・」

色んな奴が見てるぞ。かなり恥ずかしい。
所々ではこっち見て暑さでダウンしているやつも見えるぞ。

「別に気にしなくていいわよ、私たちバカップルなんだし。
何だったらキスシーンも見せてもいいくらいよ?」
「謹んで止めてくれ。そんなシーンを見られたら、翌日から登校拒否になるから」
「じゃあ、このくらいは我慢しなさいよ」

仕方なく俺は杏をそのままにしておいた。
杏が俺の近くにいるだけでホッと出来ていた。
って俺も杏のこといいながらこいつと一緒じゃん。
しばらく経ち俺から離れ、すっかり忘れていた話題に戻った。

「それじゃあ朋也、今回はどっちも悪くなかったってことにしときましょ」
「ああ、杏がそれでいいって言うならな」

俺は頷いた。
あれは元々無かったこととしてもよかったくらいの出来事だったんだ。俺の中ではそう思うことにしておいた。

「言い忘れてたんだが・・・今日の弁当も美味しかったから明日も作ってくれるか?」
「あ、当たり前よ。朋也に食べてもらえてあたしも嬉しいんだから。
これからも毎日作ってあげるわよ」

と、チャイムが鳴り響いていた。予鈴みたいだな。

「そろそろ行かないと授業に間に合わないわね」
「ま、俺は別に出たくもないんだが・・・」
「ちゃんとサボらないで出なさいよ」
「ああ、出ることは出る。起きているかは知らないがな」
「あんたはね〜・・・」

俺の答えに対して笑いながらため息を吐いていた。
昼休み前の気分とは全く逆のすっきりとした気分で午後を迎えられそうだ。














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 TK「ぐはっ!? っていきなり!?」
 杏「こんな話書くなんて・・・あんたはあたしの胸のサイズに不満でもあるの」
 TK「うちは杏さんくらいが一番だと思うっすよ」
 杏「だったら・・・」
 TK「今後は気をつけます」
 杏「それにしても今回はあんたにしては珍しい系統だったわね。
   あたしとしては何の問題は無いけど・・・後半はね」
 TK「気付いたらこんな話になっていました・・・
    最初は完全ギャグ話のはずだったんですけどね(汗」
 杏「今後はもっと話の構成を練ってから執筆するようにしなさい!
   そんなんだから駄文しか作れないのよ!
   あともっとあたしと朋也のラブラブ話を書きなさい・・・」
 TK「はい・・・って後半は勘弁して下さい・゚・(ノД`)・゚・」
 杏「・・・・・・・いいわよね?(スチャ」  
 TK「で、出来るだけ前向きに検討することを努力いたします」
 杏「何だか疑惑を向けられた政治家の遠回しな言い回しね・・・」



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