「風子ちゃんって今日が誕生日って聞いたけどホント?」
放課後、クラスメイトが風子の席に近づき、聞いていた。
「はいそうです。これで風子はまた一歩大人の女性になりました。
今日からはクールウーマン風子に生まれ変わります」
「「「う〜ん・・・」」」
「って会話に参加していない人からも物凄い疑いの眼差しが来てます」
風子が見渡すと、テスト前でもないのに風子を見ながら考え込むクラスメイトが多数いた。
「いつもの行動を知ってるとね」
「いつも完全無欠な言動ををしている風子に対する侮辱です」
「はい風子」
(ホワ〜ン)
5分後、
「・・・はっ」
現実に戻ったきた風子は座るところを失っていたため、いきなり転倒することとなった。
「痛いです!風子いつの間にか空気椅子していました!」
「・・・風子ちゃんって凄いね」
「あたしも驚愕したわ」
「皆さんがようやく風子の凄さを分かってくれてよかったです」
「ええ、色々な意味でね・・・」
そこに別にクラスメイトがやってきて、
「風子ちゃん、岡崎さんが来てるよ」
「来て」の辺りで風子は一目散に朋也の元に向かっていった。
「待ったか・・・で足プルプル震えてるけどどうかしたのか?」
「気にしないでください。ただの武者震いですから」
「何に対してだよ・・・それで帰る準備は出来てるのか?」
「少し待っててください。光速で準備しますので」
そういうと、自分の席に戻っていった。
「風子の鞄の中身が何故か床に散乱してます。
これはもしかしてF○Iの陰謀ですか!?」
実は風子が転倒した時にそうなったことを風子以外のクラスメイトは全員知っているが、誰も言わない。
教科書や筆記用具を鞄にしまい、朋也の元に戻ってきた。
「岡崎さん、お待たせしました」
荷物が散乱していたことを少し聞きたかったが、
時間の無駄なのでスルーすることにした。
「忘れもんは無いか?」
「何もありませんって風子岡崎さんから子供扱いを受けてます」
「それはおそらく気のせいだ。さっさと帰るぞ」
慌てて風子も朋也の後を追いかけていった。
帰り道、風子の前を朋也が歩いていく。
「岡崎さん、歩幅が広すぎです。
もっと足を短くして歩いてください」
「ゆっくり歩くことは出来ても足を短くすることは無理だ。
お前が3段下駄で歩けば何の問題も無いだろ」
とそういいながら朋也は歩調を遅くしていた。
そうしてしばらく無言状態が続いた。先に口を開いたのは風子だった。
「岡崎さん」
「何だ?」
「・・・何でもありません」
何であのことを言わないのか。
そう思った風子はそれなりに直線的な言葉で探ることにした。
「突然ですが今日でもう七月も二十日終わってしまいますね」
「ああ、これで夏休みも目の前だな」
「そう、ですね・・・」
朋也が全く気付いていないような素振りだったので、少し落ち込んだ。
朋也はその風子の姿には気付いたようだった。
「風子は夏休みの到来が嬉しくないのか?」
「もちろん嬉しいに決まってます!」
しかし、今の風子は別のことが気になっていて夏休みどころではなかった。
「岡崎さん、風子に何か言うことがあるんじゃないですか?」
風子のその言葉にしばし考える。
「・・・あっ!?」
「思い出しましたか?」
「そういや、風子に千円貸してた気が―――」
「あっ、風子の気のせいでした。今は特に言うこともありませんよね・・・」
言葉の最後は沈んだような声になっていた。
「風子」
「な、何ですか?」
「わりぃ、何でもなかったわ」
何かを期待してがっかりしたような風子の姿に思わず苦笑しながら見る。
「な、何で見てるんですか?」
「お前、可愛いやつだな」
「風子が可愛いことは認めますけど、唐突過ぎます。意味が分かりません」
「ん〜、次に会ったら教えてやるよ」
そして分かれ道に着いたので、それぞれの家への帰路に別れようとしていた。
「それじゃあな」
「・・・はい」
朋也を別れた後の風子の足取りは重かった。
「ただいまです」
自宅に帰ってきた風子を迎えたのは姉の公子だった。
「お帰り、ふぅちゃん・・・?」
公子は風子がいつもと違うことに気付いた。
「ふぅちゃん、何だか元気がないように見えるけどどうかしたの?」
「何でもありません・・・」
発する声にもいつもの元気が無かった。
その原因に心当たりのある公子さんは思わず声を漏らしながら微笑んでいた。
「お姉ちゃん、何で笑ってるんですか?」
「何でもありませんよ。それよりふぅちゃん、
今日はふぅちゃんのお誕生日だからふぅちゃんの大好物を夕御飯に食べれるようにしておくからね」
「風子とても楽しみにしてます」
無理やり上げたようなテンションでの風子の喜び方に再び微笑んでいた。
「な、何ですか?今日のお姉ちゃんはおかしいです」
「お姉ちゃんはいつも通りですよ。ふぅちゃんはいつもと少し違うみたいですけど」
「ふ、風子はいつも通りです。お姉ちゃんの目は節穴です」
「ふぅちゃん、そんなに怒ってばっかりだと朋也さんに嫌われてしまいますよ」
「・・・そうですね、風子は大人ですので心も広くもたないといけませんね」
「やっぱりふぅちゃんは可愛いですね」
そういいながら風子の頭を撫でていた。
「風子を子供扱いしないでください」
頬を膨らませながらもその手から離れようとはしなかった。
「ふぅちゃん、ちょっと来て下さい」
夕方の6時を過ぎた頃、公子に呼ばれた風子は台所に向かった。
「何ですか?お姉ちゃん」
「実はふぅちゃんのために古河さんの所にケーキを頼んだのですけど、
ふぅちゃん行ってくれない?
お姉ちゃん今手が離せないですし、ユウ君はぎりぎりになるみたいだから」
「何で風子が・・・」
公子はあらかじめ用意しておいた返答をする。
「実はそのケーキは特注のヒトデ型で―――」
「風子、超光速で取りに行きます」
風子は公子の話している途中で玄関に向かっていった。
「ふぅちゃん、気をつけてね」
風子が家から出た後、公子はとある所に電話を掛けていた。
「ふぅちゃん今そちらに向かいましたので、後はお願いしますね」
相手の電話口からは分かりましたとだけ聞こえた。
一方、古河家に向かっていた風子は半分くらいを過ぎた辺りでようやく気付いたことがあった。
(何で風子が自分の誕生日ケーキを取りに行かないといけないのでしょうか?)
といってもこのまま帰ってもしょうがないので行くことにした。
ふとある出来事を思い出していた。
(風子とても楽しみにしていました。なのに・・・)
そのことを一切触れてくれなかった。まるで忘れているかのように。
「岡崎さんの嘘つき、です」
考えながら歩いているうちにあっという間に古河パンに辿り着いた。
しかし、古河家はやけにひっそりとしていた。
「今日は営業してないんですかね?」
用事を済ますために店の中に入っていく。
「こんばんはです〜・・・」
パーン!パーン!
「「「(お)誕生日おめでとう!」」」
入った途端、複数のクラッカーの音と共に複数の声が聞こえてきた。
そこには古河一家に陽平、そして朋也がいた。
「いいいいい、一体ななな何なんですか!?」
驚きのあまり、風子はどもっていた。
それに答えたのは朋也だった。
「お前の誕生祝いだよ。前にやるって言ってただろ」
「でも今日帰るときには何も言ってくれなかったです・・・」
「あれはワザと忘れてる振りをしてたんだよ。
まあ、今日の風子の姿といったら・・・」
その姿を思い出し、笑いが漏れる。
風子は自分の今日の様子を思い出し、少し赤くなる。
「も、もしかしてお姉ちゃんはこのこと・・・」
「ああ、知ってたぞ。公子さんには黙っていてくれといってたからな。
もちろん、ここにいる全員も結構前から知ってたからな」
「な、何だか蚊帳の外になってたみたいでとても複雑な気分です」
「ふぅちゃん、早く入ってください。
ふぅちゃんのために色々作りましたから」
「そうだよ、風子ちゃん。それに僕だって今日聞いたんだから気にしなくていいと思うよ」
「お前と一緒にされたら風子が悲しむだろ・・・」
「どういうことっすかね!?」
朋也と陽平がいつも通り会話をしていた。
「・・・ありがとうございます。皆さん」
「それじゃあ、風子の誕生会始めるぞ!」
店の奥に入っていく中、
「風子」
「何ですか?」
「驚いたか?」
風子は少しの沈黙の後、答えた。
「とても驚きました、それに、とても嬉しかったです」
「ならよかった。まだまだこれからだから楽しみにしてろよ。
俺たちが3年分楽しませてやるからな」
そういうと、朋也も店の奥に行こうとした。
「・・・岡崎さん、ひとつだけ言いたいことがあります」
「・・・何だ?」
「岡崎さんの祝い方はプチ捻くれてます」
「そうかい」
「でも、今日のところは許してあげます。ですから3年分楽しませてください」
「言われなくてもそうしてやるよ。あとで公子さんたちも来るからな」
朋也は風子の頭に手を置き、
「・・・これで祝う人数も当初の3倍だろ?」
「本当に岡崎さんは捻くれてます」
そういいながら風子の顔は嬉しさで一杯であった。
「ちなみに、プレゼントも3倍なんですか?」
「・・・気持ちは3倍だぞ」
それ以外については朋也は何も言わなかった。
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