午後は最初の授業に遅刻してしまったから
  さすがに授業に集中することにした。

  (朋也は生徒会の仕事が終ってから行くといっておいたが…)

  しかし、少しでも多く朋也のそばに居たかった。
  だから私は生徒会室に行く前に朋也に会いに行くことにした。











   新たな旅立ち  後編











  放課後、私は生徒会室に行く前に朋也の教室に寄った。
  朋也のクラスも授業が終っていて、
  ほとんど人は居なかった。

  「ん、智代。生徒会の仕事があるんじゃなかったのか。」

  そんな教室で朋也は机で寝そべっていた。
  どうやら今から寝るつもりだったようだ。

  「行く前に少し朋也の所に寄りたかっただけだ。
  すぐに行くつもりだ。」

  私は周りを見渡して、

  「それにしても人が居ないのだな。」

  朋也のクラスも人がいないが、
  他の3年のクラスもほとんど残っていなかった。

  「まあな、ほとんどの奴は早く家に帰って
  受験勉強をしないといけないからな、本番も近いしな。
  のんびりしている暇はないんだよ。
  ま、俺は就職組でしかも決まってるからのんびりしてるんだがな。」
  「そうだったのか、では私はそろそろ行くからな。」

  本心はもう少しいたいのだがな。

  「ああ、ここで惰眠を貪って待ってるぞ。」
  「そうだ、一つ忘れていたことがあった。」
  「何だ、忘れていた事って…」

  その瞬間、朋也と唇を交わした。

  「むっ、不意打ちとは卑怯だぞ。」
  「私は昔よく不意打ちでキスされていたがな。
  ではそろそろ行くからな。」
  「ちょっと待ってくれ智代。」
  「何だ朋也、んっ…」

  私が振り返った瞬間に朋也がキスをしてきた。

  「…これでおあいこだな。」
  「朋也はホントにキス魔だな。」
  「それは智代だけにだって。」
  「ふっ…じゃあ今度こそ行くからな、
  さすがにこれ以上は遅れたくないからな。」
  「ああ、ずっと待ってるからな。」

  そういって朋也は机に寝そべって寝始めていた。

  (今日は早く終らせよう。)

  そう心に決めた。急いで生徒会室に向かうことにした。
  


  
  だが、そんな日に限ってなかなか終らない。
  今日中に決めなくてはいけない事があるからだ。

  (早く終らせて朋也の所に行きたいのだが…)

  そのうちの一つが卒業式に関する議題であった。
  卒業式…それは私が朋也に関われるであろう最後の学校行事であった。
  だからこれはきちんとやっておきたかった。

  「会長、これについてなんですが…」
  「ああ、これか、これはだな…」

  まあ、こんなことを考えていても一向に終らないな。
  早く終らせて朋也の所に行こう。
  そう思いながら、まだ残っている議題をこなしていった。
  
  


  そうして生徒会の仕事を終ったのは5時が過ぎた時だった。
  冬であるこの時期だともうかなり暗くなってきている。
  廊下の電気も残っている生徒がいない為か、所々ついていない。
  3年の教室は特に暗かった。まるで誰もいないような世界だった。

  (朋也は残ってくれているだろうか…)

  朋也は残っているとは言っていたが…
  この真っ暗の廊下を歩いていると信じれなくなってしまう。


  
  朋也のクラスに近づいたが、真っ暗だった。
  音を立てずに入っていく。
  朋也の席の近くに人影があった。

  「・・・・・・・すぅ・・・」

  寝ている朋也がいた。

  「まったく…よくこんな寒いところで寝ていられるな。」

  それでも嬉しかった。
  こんな遅くまで私のために待っていたことを。

  「・・ん〜・・ムニャムニャ・・・・」
  「それにしても…」

  朋也の寝顔は結構かわいいな。
  思わず見惚れてしまったぞ。
  今朝は布団に潜っているから見ることが出来なかったからな…
  って布団に頭から布団を被っていたのは前もだったな。
  朋也の寝顔は初めて見る気がするな。
  起こしたいが、もう少し寝顔を拝んでから起こすことにしよう。

  「・・・・・・」

  朋也がこっちを見ていた。

  「なあ智代。」
  「・・・・・・」
  「お前、凄い顔近づけているな、
  俺が寝ている間にキスでもしようとしていたのか?
  そうだったらホントにカワイイ奴だな。」

  朋也は笑いを堪えている。くっ、何か悔しいぞ。

  「…お前はいつから起きてたんだ。」
  「ん〜、ちょっと前からかな。
  お前が何かボ〜ッとしていた所ぐらいからかな。」
  「声を掛けてくれてもいいじゃないか。」
  「いや〜、智代があまりに可愛くて幸せな顔をしていたからな。
  思わず観察していたんだ。」
  「そんなこと面と向かって言うな。
  もちろん嬉しいんだが、恥ずかしいではないか。」
  「まあ、誰も居ないんだし、いいじゃないか。」

  そういいながら私を抱きしめた。

  「全く…こんなところ教師に見られたら大変だぞ。」
  「別に構わねえよ。そん時はそん時だ。」
  「しかし、前科があるんだからな…今度こそは退学だぞ。
  そうなったら朋也と過ごせたはずの残り少ない学生生活も無くなってしまう。
  それは私にとってとても悲しいことだ。」
  「む、それはいかんな。
  じゃあ、今はこれだけで我慢しよう。」

  そういって唇を交わらせた。

  「それじゃ…帰るとするか。」
  「ああ。」
  
  
  
  
  外に出ると冷たい風が吹き付けてきた。
  昨日降り積もった雪がまだ所々残っている。

  「かなり冷え込んできたな…寒くないか智代。」
  「多少寒いが…朋也が近くにいてくれるから大丈夫だ。それに…」
  「それに?」
  「昨日朋也を待っていたときに比べればたいしたことは無い。」

  そう、あのときの寒さに比べれば。

  「そうか…」

  そこから少し無言になった。


  
  そうして今はまだ咲いていない桜並木を下っていった。
  その先の校門で人影を発見した。

  「こんなくらいところで一体何してるんだろうな。」
  「誰かを待ってるのではないか。」

  そんなことを言っていると、

  「僕が待ってたのはあんた達なんだけどね。」

  それは私はよく知っていた人物だった。
  それはそうだ。彼は私と同じ生徒会の人間だからな、そして…

  「お前は…確かあん時以来か?」
  「そうだ。久しぶりだな。」

  私と朋也が別れる寸前に朋也が話していた人物でもあった。
  そのときの話の詳細は知らないがな。

  「相変わらず先輩に対してタメ口なんだな。」
  「これが素なんでな。
  生徒会にいてもそう簡単には変わらないよ。」
  「前もそんなこと言ってたな。」
  「あんたも同じ質問したな。」
  「そうだったな、んで俺達に何か用か?」

  頷いてから、話し始めた。

  「生徒会にいたときの坂上の様子が会長になったときに似ていたからな…
  もしかして…と思ったんだ。
  ・・・坂上、やっぱり再びそいつの恋人になったのか。」
  「そうだぞ。なあ、朋也。」
  「・・・ああ。」
  「そうか、しかしあんたはそれでいいのか。
  また同じ過ちを繰り返すのかも知れないんだぞ。」
  「…それはどういうことだ。」

  私はそいつに睨みながら言った。

  「坂上そう睨むなよ。僕は坂上じゃなくてそっちの先輩に言ってるんだ。」
  「・・・・・・」

  朋也は黙ってそれを聞いていた。
  仕方ないので私も黙っていることにした。

  「あんたには以前にも言ったはずだ。
  あんたが坂上といるとよくないって。」
  「・・・・・・」

  朋也はまだ黙っていた。

  「坂上は無限の可能性を秘めている。
  きっと、どんな夢だって叶える事が出来るだろう。
  いや、出来るに違いない。」
  「確かにな。」
  「でも、あんたは分かっているだろう。
  もしあんたが坂上のそばにいれば、その可能性を全て潰してしまうことに。
  そしてそれを知ったから、以前あんたは坂上と別れたんだろ。」

  あの時、そんなことを話していたのか。
  じゃあ、朋也が私に分かれようと言ったのはもしかして・・・

  「それなのに何故あんたは再び坂上のそばに居ようとしているんだ。
  それが坂上の可能性を潰してしまうことになるんだぞ。
  あんたはそれを分かってこの選択肢を選んだのか。
  それに、あんたがまた坂上と共にいることが
  苦しいと感じることが来るかもしれないんだぞ。
 そうなったらあんたはどうするんだ。」


  
  「・・・・・・」
  「何か言ったらどうなんだ。」

  朋也はいまだ黙ったままだ。
  もう、これ以上黙っていられない。
  私が何か言おうとした瞬間、

  「そうだな…」

  朋也が口を開いた。

  「お前の言うことにも一理はある。」

  朋也は否定しなかった。その言葉に嘘も無かった。
  まだ、朋也がそんなことを考えているということが悲しかった。

  「確かに俺が智代と一緒に居ることは
  智代が更なる高みに行くことへの弊害になると思う。
  そうなるなら俺と智代は別れたほうがいい。」

  朋也は何のためらいも無く言った。

  「朋也・・・」
  「何だよ、あんたも分かってるんだ。
  だったら坂上と一緒にいるのは…」
  「だけどな、」

  そこで朋也が言葉を遮った。

  「それが智代の望んでいるものと違えば話は別だ。
  たとえそうすることが智代にとって一番いい事だとしても、
  智代がそれに納得しなかったら、
  それは他人の単なる押し付けで自己満足なんだよ。それにな…」

  朋也は私の事を見ながら、


  
  「俺は智代がいない生活はもう嫌だからな。
  ま、たとえ智代が俺と別れたいって言っても別れないけどな。」

  朋也は照れくさそうに、それでいてはっきりと言った。


  
  「朋也…」

  それは私にとってこれ以上無い嬉しい言葉であった。

  「それがあんたの答えなんだな。」
  「ああ。」

  はっきりと答えた。

  「そうか、これ以上あんたと話しても仕方ないな。」

  そういって私のほうを見た。

  「で、坂上はどうなんだ。はっきり聞こう。
  あんたは自分の将来が大切ではないのか?」

  「確かに私は自分の将来が大切だとは思っている。
  自分の事を捨てる奴なんていない。」
  「・・・。なら坂上、君がとるべき道は決まってるだろ。」
  「ああ、だから私は朋也と一緒に歩む道を選んだんだ。」
  「何で坂上はそんなつまらない事を言うんだ。
  そんな奴といてもしょうがないんだぞ。
  自分の可能性を潰すつもりか?」

  強い口調で返してきた。
  だから私もはっきりと返した。


  
  「私が一番欲しいのは朋也といれる日常だ。
  それが出来ないというならそんな可能性は欲しくない。

  
  そして、朋也とこれからもずっと一緒にいることが私の将来の夢なんだ。」

  
  「・・・・・・」

  もう何も返してこなかった。

  「…朋也、もう行こう。」
  「あ、ああ。」

  そういって私達は校門を後にしようとした。

  「坂上。」

  声を掛けられた。

  「…何だ。」

  私はもうそっちは見ようとはしない。見る必要も無い。

  「お前は自分が選んだ選択肢に後悔はしないのか。」

  それが最後の質問であろう。
  私はそれにはこう答えた。

  「私にとっては今朋也と別れるという選択肢を選ぶことのほうが
  どんな選択肢よりも後悔すると思っている。」

  そういって今度こそ学校から離れていった。

  
  
  
  「朋也。」

  私は歩いていた朋也の前に回りこんで呼びかけた。

  「ん、何だ。」
  「さっきの話だが、私が朋也と別れたいと思うことなんてないからな。
  朋也とは一生いっしょにいたいからな。だから安心しろ。」

  それを聞くと、朋也も同じように、

  「それは俺も同じだからな。智代には一生そばに居て欲しいぞ。」

  そういって私を抱きしめてくれた。

  「朋也、本当にもう私を放したりしないか。」
  「ああ、そんなことはしない。」

  朋也ははっきり言った。

  「しかしそれでも私は不安なんだ。」

  そう、朋也が私の可能性というのを感じている限り。

  「・・・智代。」

  朋也はより強く抱きしめてきた。

  「俺はもうお前を悲しませたりしないからな。
  もし智代が不安だと思ったら、俺がいつでもこうやって抱きしめてやる。」
  「朋也・・・」

  その言葉が嬉しかった。同時に照れくさかった。

  「ありがとう、朋也。」
  


  
  しばらくして朋也は私を抱くのをやめて、

  「しかしこんな遅くなっちまったな。
  今日はこのまま帰るしかないか。」

  確かにもう夜になってきて寒くなってきた。
  風も強く吹き付けてきている。
  雪もチラチラと降っている。明日も積もるだろうか?

  「そうだな、今日は何処にもいけないというのは残念だがな。」

  そして、ちょっと悲しそうな顔をしてみた。

  「そんなこと顔するなよ。」
  「冗談だ、朋也とはこれからずっと一緒に入れるんだ。
  また機会があるんだからな。今日のところは我慢する。」
  「そんな冗談はやめてくれよ。」

  朋也はちょっと拗ねたように言った。

  「お前は昔私に散々ひどい嘘を言ってきたがな。
  私は別れようとかいってきたりしたよね。」

  一度だけは本気であったが…

  「うっ・・・分かった。もうそんな嘘はつかない。」
  「出来れば本気でも言ってほしくはないがな。」
  「そんな事言うつもりも無い。智代を悲しませたくは無いからな。
  だからお前と別れることなんてあり得ない。
  そんな智代を最も悲しませることなんて…」

  そういいながら再び私を抱きしめてくれた。
  

  
  朋也のぬくもりを感じることが出来る。

  「朋也・・・」
  「・・・何だ?」
  「私はどんなことがあっても朋也のことを好きでい続けるからな。」
  「それは俺も同じことだ、智代。」
  

  
  私たちは永い口付けをかわした。

  
  そのときに舞っていた雪は



  まるで私たちを祝福するために舞っている様にも見えた。











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 TK「何とか終りましたよ。」
 智代「もう少し朋也とのことを書いて欲しかったぞ。」
 TK「これ以上のラブラブは私には無理ですね。」
 朋也「しかし、よく書けたもんだな。」
 TK「褒めてくれるんですか!?」
 朋也「こんな駄文を」
 TK「・・・酷すぎます・'・(ノД`)・'・」
 智代「書いただけよしとしてやろう。」
 TK「少しは褒めてくれても・・・ _| ̄|○ 」
 智代「また私のSSを書いてもらいたいものだ。」
 朋也「そういえば、お前にしては
   珍しくあいつがいないSSだな。」
 TK「ああ、あれがおるとギャク系に走るから。
   今回は消しときました。」
 智代「賢明な判断だったな。
   危うく宙に浮くところだったな。」
 TK(ふ〜、助かった。)
 智代「最後に聞いていいか?」
 TK「何でしょうか?」
 智代「私のSSはもう作らないのか?」
 TK「勿論作りますよ、・・・・・・いつかですが。」
 智代「そうか、期待せずに待っていよう。」
 朋也「それじゃあ、このあたりで。」

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