「タツヤ・・・・・・ありがとう」

リースの最後の言葉を俺は噛みしめ、
心の奥にまで刻んだ。











  その時に贈りたい言葉











「お兄ちゃん、今から何処かに出掛けるの?」

左門でのバイトが終わって家に帰って、
すぐに出かける準備をしていた俺に麻衣が話しかけてきた。

「イタリアンズの散歩にでも行こうかと思ってな」
「あっ、そうだったんだ」

大学に進学してから、俺が散歩連れていくのは、
左門のバイトが終わり、夕食を取った後にすることが多くなっていた。

「それじゃあ、行ってくるから」
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「ああ」



「わふっわふっ」

俺が庭に来ると、三匹とも嬉しそうに吠え出した。
行動が読まれているみたいで何故か悔しい。

「んじゃ行くぞ」

一人と三匹のいつも通りの夜の散歩に出掛けた。







夜の川沿いを歩く俺達に風が吹きつけていた。

「ううっ、結構寒いな」

既に春になったとはいえ、今日は少し気温が低いためか、
風がいつもより冷たく感じられた。

「まあ、その分・・・」

ふと空を見上げた。
真っ暗な空には数々の星、そして綺麗に輝く月があった。
その幻想的ともいえる風景に思わず見とれていた。

「わうっ、わふっ!」

イタリアンズの3匹に吠えられて、現実に帰った。

「外は冷えるしな、早く公園まで行って帰るか」







物見の丘公園はいつも通り、静けさが漂っていた。
ただ、いつもより静かに感じた。
木々のざわめきが大きく聞こえてくる。

「さてと、帰るとするか」

そう思い家に向かおうとする直前、

「わふっわふっ!」
「ど、どうしたんだ?」

突然イタリアンズが吠え出して驚いてしまった。
どうやらモニュメントのある丘に行きたいみたいだった。
丘に何かあるのだろうか

「・・・行ってみればいいか」

丘の高いほうに向かって歩いた。

「はぁはぁ・・・」

少し肩で息をしていた。
イタリアンズが早く行こうとして引っ張られたので余計に疲れたのかもしれない。

「ふぅ〜」

少し気を緩めたその一瞬の隙をつき、イタリアンズが走り出した。
俺は思わず手綱を放してしまった。
3匹とも同じ方向に向かって駆けていた。
俺もその方向に向かって走った。

「わふっわふっ!」「わんっわんっ!」「おんっ!」

少し走ると、3匹が固まっていた。
見たところ、何かに集まっているみたいだが・・・

「―――――」

その中から声が聞こえたような気がした。

「・・・?」

この声どっかで聞いたような・・・?

「ぷはっ」
「えっ―――」

その姿は・・・

「―――リース―――」

俺はその名前をようやく出すことが出来た。
おそらくあの時以来だろう、その名前を口に出して呼ぶのは・・・
リースの俺をジッと見ている。

「タツヤ・・・」

そして、その声を聞いたのもそのとき以来だろう。

俺たちはあれ以来の再会を果たした。







俺たちは月が照らす草むらの上に座っていた。
イタリアンズは何処かに行っている。

「もう会えないと思ってたぞ」

リースは俺の足の間に座っていた。

「今日は会うつもりは無かった。
ただここに来たかっただけ。だから行かなかった」
「それはちょっと悲しいぞ・・・」
「でも・・・」

少し間をおいて、

「もしかしてタツヤがここに来るかもしれないと思って待ってた」

そんな可能性の低い事なんかしていなくても
そう思う一方、その低い可能性を自分が行えたことが嬉しかった。
といっても現在その辺りを駆けているイタリアンズがいなかったら無かった再会だったが。

「とにかくリースに会えて嬉しいぞ」

リースの頭を撫でる。

「うん、私も嬉しい」

顔を赤らめながら答えた。

「そういえば、ここに来ることにフィアッカはどう思ってたんだ?」

フィアッカはリースが目的に逸脱しない限り、外に出ないといっていた。
ここに来たことは目的からは外れていることには違いない。

「フィアッカ様は『タツヤ達に会いに行かなければ』という条件で了承してくれた」
「でも、俺と会ってるだろ?」
「タツヤ、勘違いしてる。タツヤに会っていけないとは言ってない」
「なるほどな」

俺がここに来たのは偶然といっていいから、
それについては何も言わないということか。

「ということは姉さん達には・・・」
「うん、会いに行かない」

これはリース達が決めたことなので、俺が口を挟むことは出来ない。

「でも、リースがいきなりいなくなるもんだから姉さんとかガッカリしてたぞ。
だから少しでも早く会いに行ってやれよ」

リースは軽くだが頷いた。

俺とリースは何も話さずただ一緒にいた。
リースは俺の足の間にジッと座り、俺はリースの頭を撫でていた。
どれくらいの時間が経っただろうか。

「タツヤ」

リースが口を開けた。
俺は黙って聞いてやることにした。

「実はフィアッカ様との条件、もう一つだけある」
「何だ?」
「―――ここにいるのは今日のみってこと」
「そうか・・・」

それは残念に思った。でも俺にとっては
二度と会えないかもしれないと思っていたリースに会えた、
そのことだけでも嬉しかったので、止めようとは思わなかった。
ここで止めれるなら、あの時も止めれただろうし。

「だったらその瞬間まで一緒にいようぜ」

リースは何も言わず、俺にもたれかかってきた。







実際の時間にしたらほんの少し、
でも俺とリースにとっては永く感じられた時間がなくなってきた。

「タツヤ、あと1分」

リースは立ち上がった。
俺も立ち上がり、リースの手を握り、強く抱きしめた。

「リース、俺今月の事勉強してるんだ。
もっと勉強して月に留学できる頑張る。
だからその時には絶対会いに来てくれよ」
「でも、そのときにワタシが会いに行くとは限らない」
「リースはここに俺が来ると信じて待ってたんだ。
だから俺もリースの事を信じる」

リースは俯いて黙っている。

「といってもリースと違って予告してるからな。
忘れないでといったほうが正確か?」

俺は苦笑した。リースと分かれる直前というのに俺も呑気だな。
リースは俺から離れ、

「分かった」

リースは俺の問いに応えた。

「タツヤが月に来ること信じてる。もし来なかったら―――」
「来なかったら?」
「タツヤの事嫌いになる」
「・・・リースに嫌われるのは嫌だからな、絶対に行ってみせる!」

俺の問いにリースは僅かだが嬉しそうな顔をした・・・気がした。

「あと20秒」

短かったリースとの再会の時間も終わりだ。

「リース」
「何?」

俺は一つの疑問を聞いていなかった。
それを最後に聞くことにした。

「何でここに来たのが今日なんだ?」

その問いに対し、ほんの少しだけ間が空き、

「ワタシの・・・誕生日だから」

そう答えた瞬間、風と共にリースはいなくなった。

「・・・・・・そういうことは最初に言えよ」

俺はちょっと悔しかった。
そして絶対にリースに会いに行くと誓った。
そして、今日という日にリースに言ってやりたい。




―――Happy Birthday!―――




誕生した日を祝福するその言葉を――――

俺の大切な人に――――














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