二度あることは・・・











ドンドンドンドンッ

「航ぅ」

夜も12時になろうとしていた時間だった。
俺の部屋のドアを何度もノックする音と共に助けを求める声が聞こえてきた。
寝ようとしていた俺は無視したかったが、相手が相手だったので仕方なくドアを開けた。

「凛奈、何の用だ? 俺は明日の英気を養うために寝ようとしてたんだけど」
「ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「それは今じゃないといけないのか?」
「ど〜しても今じゃないと駄目なのよ。他ならぬ彼女の頼みなのよ」
「・・・分かった」

そんな言い方されたら断ることは出来ない。
仕方なく、凛奈を部屋に招きいれた。




「・・・それで、一体何なんだ? ふわぁ〜」

俺は襲ってくる眠気に耐えながら尋ねた。
昨日はあまり寝ていなかったからな。

「航、明日何があるか知ってる?」
「当たり前だ。試験、テストだ。
今日もあったんだからな」

そのためにさっきまで嫌々ながらも勉強に励み、
燃え尽きてしまった脳を休ませるために今から眠りにつこうとしていたのだ。

「あ〜、それはごめんね」
「謝らなくてもいい。それよりさっさと用件を言ってくれ」

俺は早く寝たいんだ、今すぐにでも。

「だからごめん・・・」
「だから―――」

とその先を言おうとして俺の脳裏には一つの仮説が思い浮かんだ。
何故、凛奈は俺に謝るのか?嫌な予感がしてきた。

「もしかして・・・そうなのか?」
「うん、航の考えてるとおり。
明日のテスト勉強してたら、気付いてたら寝てた。
しかもまだ1教科丸々と残り1教科も半分くらい残ってる」
「授業は聞いているか?」
「・・・前と変わらない。睡眠学習が基本。気付いたらチャイムが鳴ってる」
「・・・ちょっと待ってろ」
俺は暫し熟考する。すぐに結論は出た。

「・・・・・・すまん凛奈、一人で何とか頑張ってくれ」

俺は布団に潜り込む。
そうしようと思ったが、寸前のところで凛奈に阻止された。

「航、あたしを見捨てるの〜。
今回も赤点だったら皆に迷惑かけちゃうんだよ〜」
「今、俺に迷惑掛かってるからな。
さすがに2度同じことをする奴を助けることはできん」
「彼女が赤点とってもいいっていうの〜」
「俺は全然気にしないぞ、赤点まみれの彼女でも。
だから寝させてくれ」

さっさと布団に入って寝ようとする。
しかし、それを断固阻止しようとする凛奈。

「あたしが気にするの〜」
「お前には陸上があるだろ。だから大丈夫だ」
「赤点取ったら追試で走れなくなるのよ〜」
「だったら、今から頑張ってくれ。お前だけで」
「あたしだけじゃ絶対に無理。
だから航ぅ、あたしと一緒に徹夜で頑張りましょ」

堂々巡りになりかけていたこの抗争(?)に決着をつけたのはある人物だった。

「あんたたちね・・・こんな夜遅くまで何いちゃついてるのよ」

部屋の入り口には会長が仁王立ちをしていた。
その顔は辛うじて笑顔が保たれているといった顔だった。

「いちゃついてないって・・・」

俺の言葉は届いていないようだ。

「明日は試験だっていうのに彼女と騒いじゃって・・・星野くんは随分と余裕があるのね〜」

その声は明らかに怒りオーラ全開です。

「お、落ち着け会長。これはだな・・・」

俺の言い訳は聞き入れてもらえなかった。







「・・・大丈夫?」
「・・・・・・この世は理不尽だよな」

俺は寝ようとしてたんだよな?
何でこんなに体中が痛いんだろう。しかも被害者の俺だけが。
そのおかげ(?)で眠気はすっかり解消されていた。
もう一回言うが、何で俺だけなんだ? これも宿命ってやつなのか?

「・・・勉強でもするか?」
「へぇ?」

唖然とした顔で俺を見ていた。

「お前ここに勉強しに来たんだろ?」
「でもさっき寝るって・・・」
「せっかく俺が見てやるって言ってるんだから遠慮しないで見てもらえ。
大体眠気なんて吹っ飛んじまって寝れないしな」

さっきの会長の鉄拳制裁等々によって。
凛奈はそのことに気付いて、

「ごめんね」
「・・・気にするな」

俺はそういって机に向かい座った。
凛奈も俺の横に座った。

「それじゃあ、まずは凛奈が何処まで終わっているかを聞くことにしよう」
「うん・・・」

明日の試験科目の一つ、古典の教科書を開き、

「ここから・・・ここまで・・・しかやってないの、よ」
「・・・・・・マジでか?」
「うん、マジ」

思わず唖然としてしまった。
いつぞやにもあったな、そんなことが。

「お前、馬鹿だろ?」
「ば、馬鹿って彼女に向かっていう言葉?」
「学習能力の無い奴の何処が馬鹿じゃないんだ?」
「そんな馬鹿を彼女にしてる彼氏も馬鹿だね」
「だったら・・・っとこれ以上言い争いをしていてもしょうがない」

あんまり騒ぐと、また人をいたぶることを生きがいとする会長さんが来るやもしれない。

「こんなことをしている間にもただでさえ少ない時間が更に無くなっていくだけだ。
こうなったら詰め込め、ひたすら詰め込め。
テストが終わった瞬間にすべて忘れてもいい。とにかく詰め込むんだ」
「うん」




そういって凛奈は暗記作業に入った。
ってこれだったら俺必要ないよな?
とりあえず、隣に座り見物することにした。
あっ、少し眠気が来たな・・・

・・・・・・

・・・・・・

「ぐぅ・・・」

ぎゅ〜〜〜

「いだだだだだ」

突然、両頬に激痛が走る。

「あたしが頑張ってるのに寝るなんて、人でなし〜」
「そっくりそのまま返してやるよ。俺はお前が寝ている間に頑張ってただろ? だから問題なし」
「だったら、ここ教えて」
「ん〜っとここか、・・・・・・」
「・・・航?」
「あ〜、何だか俺も急に勉強したくなってきたな〜。凛奈、一緒に頑張ろうぜ!」

凛奈の冷ややかな視線が痛いぜ。

「赤点候補の航もあたしと一緒に頑張ろうね」

何とも嬉しそうな顔してやがるな。・・・少し許せん。

「赤点確定の凛菜には言われたくないな。
俺は候補生どまりだから」
「まだ決まってないわよ! あたしのことを甘く見ないでよ」

いや、確定だろ。お前のことよく分かってるし。
いつも赤点スレスレの成績であることを。というか一学期は赤点だったな。

「そ、そんな過去のことは覚えてなくてもいいのよ! 大事なのは今なの」
「その大事な今もこんなんだけどな」
「こんなんとか言うな!こうなったら・・・」

俺のほうを向きながら、

「あんたも一緒に赤点とるようにしてやる〜」
「何の根本的な解決になってないだろ!」

少し前の決意は何処にいったんだ?
ていうか、俺の上に乗っかってどうするつもりだ。


ガチャッ


「あの〜、お夜食持ってきたん・・・だ・・・けど・・・」
「「あっ・・・」」

ドアの前では海己が固まっている。タイミング的には最悪だ。
部屋に入ったら、目の前で俺の上に凛奈が乗っかっているという状態だし。

「あのな、落ち着け海己。これはだな・・・」

今日の俺は厄日なのだろうか?そんなことを考えている。

「そ、そうだよね・・・航と凛奈ちゃんは付き合ってるんだよね。
私、邪魔しちゃったね。す、すぐに出てくから」
「ちょっと待て!」
「海己、待って!」

俺たち二人の制止を振り切り、行ってしまった。
しばし俺と凛奈は固まってしまった。

「・・・どうしよう?」
「どうするも何も・・・その前に俺の上から退いてくれないと、どうしようもない」
「ふ〜ん、あんた達本当に余裕みたいね」

絶対零度といってもいいお声が聞こえてきた。
どうやらさっきの海己の疾走を見て、俺たちの部屋にやってきたのだろう。
何で最も見られたら困る人物が見ているんだ。

「・・・おい凛奈。お前から見ろ。
こんな状況になったのはお前のせいだぞ」
「あたしには無理。航、ここが彼氏の見せ所だよ」
「無理だ。たった一つの命を粗末にするのだけはゴメンだ」
「そんなんじゃ彼女の一人も出来ないわよ」
「・・・凛奈って俺の彼女じゃん」
「・・・それを言うな」
「・・・あんたたち、あたしのこと忘れていちゃついてるんじゃないわよ」
「そんなんじゃないって」

決して現実から目を背けているわけじゃないぞ。
会長からは思いっきり目を背けているわけだが。

「・・・二人とも、そこに座りなさい。
その根性を叩き直してあげるから」




その後、会長のありがたい説教を受け続けた。
ようやく解放されたのは2時間後だった。

「航、あたしの分まで頑張って」
「悪いが、今の2時間で俺の知識はかなり消えうせた。
このままだと俺も赤点だ」

勉強しようとしてする前よりピンチになってるのは何でだ?

「凛奈!」
「な、何?」
「今晩徹夜しても大丈夫だよな!」
「・・・さっきまで寝てたから」
「俺も一緒に頑張るから、頑張るぞ」

凛奈は俺の言葉に無言で頷いた。







次の日、

「凛奈、どうだった?」
「な、何とか赤点は回避できるみたい・・・」

徹夜の詰め込みのおかげでギリギリ何とかなりそうだった。
とりあえず一安心とばかりに息を吐いた。
しかし、その一安心も長くは続かなかった。

「でも、一つだけ問題が・・・」
「何だ?」
「あたし、もう眠くて眠くて・・・」
「俺もだ」
「きっと昨日と同じことになると思う」
「・・・・・・」
「しょ、しょうがないんだよ! 二度あることは三度あるって言うし・・・」
「・・・もう勘弁してくれ!」

俺の心からの叫びだった。



予想通りというか
その日の深夜に同じ台詞を聞くことになることとなり、
翌日も徹夜明けでテストを受けることになったことは言うまでもない。














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