始まりの前の卒業式











「これで俺達も卒業か・・・」
「そうだな・・・」

卒業式が行われていた体育館の外で、俺と雄二がしみじみと会話する。

「といっても貴明と同じ高校に進学するんだからな、
感慨に浸ることもないんだがな」
「それは言うなって・・・」

所々では泣きながら友人と抱き合ってる人も見えた。

「タカくーん! タカくーん、どこでありますかー!」

そんなお別れを惜しむ空気の中、明らかに空気違いな声が響いてきた。
そんな声がかなり恥ずかしい。

「・・・・・・」
「いや〜幸せ者だね、貴明は」

その顔は明らかにからかっている顔だ。
周りで俺を見ているやつもいる。
このまま放っておくと、このみが俺を見つけるまでずっと羞恥プレイだ。

「このみー、こっちだ」

仕方なく声を上げる。
すると、とても嬉しそうな表情をしてこっちに突進してきた。
そしてかかとで急ブレーキをかけ、俺たちの手前でピタッと止まった。

「タカくんようやく発見でありますー!」

そんな大声出してきたら余計に目立つだろ。
おかげで周りの同級生に物凄い見られている。

「タカくんどうしたの?」

このみはそんなのお構いなしのようだ。
というより、気付いていないみたいだ。
それだったら俺も気にする必要ないな。気にしたらかえって恥ずかしいだけだ。

「いや、何でも・・・で、何か用か?」
「うん、タカくんに直接おめでとうって言いたかったの」

そんなことだけで来るなんて・・・心の中で苦笑していた。
そうして、俺の前に立ち、

「タカくん、卒業おめでとう」
「・・・ありがとな、このみ」

照れ隠しのため、このみの頭を撫でた。

「えへー」

このみは嬉しそうな顔をいた。

「おい、このみ!
貴明の隣にいる俺には何の言葉もないのかよ」

隣にいた雄二がこのみを睨んでいた。
そんな雄二に、

「あっ、ユウくん、卒業おめでと〜」
「俺と貴明の扱いに明らかに差があるだろ!」
「ユウ君の気のせいだよ〜」

このみ、俺も明らかに差があると思ったぞ。

「嘘つけ、このチビ助!」

このみの頭を鷲づかみにして、ガクガクと揺らしている。

「うあ゛〜」

このみは助けを求めるようにこっちを見たが、
ここは雄二の言い分が正しいので、俺は静観だ。
すぐに雄二から解放されたこのみは俺を睨んでいた。
いや、そんな顔されても困るんだが・・・

「それでこのみ、貴明を探してた理由ってホントにそれだけか?」

このみを解放した雄二が聞いていた。
確かにそれだけのために来るというのはおかしいだろう。
まあ、このみならあり得ないことじゃないと思うのだが・・・

「うん、タカくんと一緒に帰りたかったというのも
探していたもう一つの理由なんだよ〜」
「はぁ!?俺と?」
「だってタカくんと帰れるの、今日が最後だもん」
「俺達が通う高校も近いから一緒に帰ろうと思えば帰れるぞ」
「でもでも、中学校から一緒に帰れるのは今日しかないんだよ〜」
「つーてもな・・・」
「貴明」

と、近くにいた雄二が声を掛けた。

「このみがせっかく来てくれたんだから、一緒に帰ってやれよ」

雄二もこのみに味方をするみたいだった。
こういうときの雄二には反対意見は通用しにくい。

「じゃあ雄二も―――」
「おっと、俺は今から女の子と遊びに行く、
という重大な任務があるから無理だ」

いや、全くもって初耳だぞ。
今考えた理由だろ、それ。

「おい、雄二―――」
「じゃあな貴明、また近い内にな」

俺の言葉を待たずに雄二は何処かに行ってしまった。
ここでこのみを放っていくことはさすがに出来ないよな?

「帰るか、このみ」
「う、うん・・・」

返事をするこのみは複雑そうな表情をしていた。

ちなみにその姿を見たクラスメートからは生暖かい目で見られていた。









帰り道、このみはいつもと違って無言だった。
一緒に帰ると、必ず色々話しかけてくるのに・・・
このみがそんな調子だったため、俺も話しかけることが出来なかった。

「タカくん」
「な、何だ?」

急にこのみに話しかけられたため、ちょっと慌ててしまった。

「このみと一緒に帰っても楽しくない?」

落ち込んだ表情をしながらいった。
その質問に少し驚いた。

「俺はそんなこと全然無いぞ」
「だってタカくん、全然話してくれないんだもん」
「うっ、それはだな・・・」

話し辛い雰囲気だったからと言おうとしてやめておいた。
話していなかったのは事実だったからな。

「きっとこのみが無理矢理に一緒に帰ろうとしたからなんだよね」
「・・・」

そんなこと考えてたのか・・・だったら悪いことをしたな。
不意にこのみの頭に手を置いた。

「えっ、タカくん・・・?」
「んなこと思ってないから大丈夫だ。
もし、ホントに嫌だったら一緒になんて帰らないって」

その言葉に、さっきまでの表情とうって変わって嬉しそうな表情をしていた。
このみのそんな表情に思わず頭を撫でてやった。

「えへ〜」
「このみ、さっきとはえらい違う表情だな・・・」
「嬉しいからだよ、タカくん!」

そんなこのみを見て、俺は苦笑してしまった。









その後のこのみはいつもの明るいこのみに戻っていた。
今日の卒業式のことなど様々な話をした。
そんな会話をしていると、あっという間に家の前に着いてしまった。

「もう着いちゃったんだね・・・」

このみは残念そうだった。

「ねえタカくん」
「何だ?」
「タカくんは誰かに第2ボタンとかあげたの?」
「・・・いきなり唐突な疑問だな」

何でそんな質問をしてきたかは気になったが、まあ気にすることでもないか。
見事にボタンが揃っている制服を見せながら、

「どう見たってあげてないだろ?
というかそもそもあげる相手もいないしな」

それに俺のボタンを欲しがるやつなんていないと思うしな。
そんなこと雄二の前で言うと、ため息をつかれると思うがな。

「そうなんだ〜、だったらこのみがもらってもいい?」
「ん、別にいいぞ」

制服の第2ボタンに手を掛け取ろうとした時、

「タカくん、ちょっと待った!」

このみの一声によってその行動は止められた。

「な、何だこのみ?」
「タカくんが取ったら駄目なの!このみが取るの〜」
「別にどっちでも変わらないだろ・・・」
「むぅ〜」

頬を膨らませているこのみを見て苦笑しながら、

「分かった分かった・・・」

そういうと、このみが近くに来て俺のボタンを取ろうとした。

「・・・届くか?」
「このみそんなに小さくないよ!」

そういいながら俺の第2ボタンをとった。

「タカくん、ありがと〜」
「別に感謝される必要は無いんだけどな・・・
んで、それ貰ってどうするんだ?」
「ん〜とね、・・・どうしよう?」

その辺は考えてなかったみたいだ。

「じゃあ、賞状みたいに枠に入れて飾って・・・」
「そんな羞恥をさらすことはやめてくれ。
机の中とか人目につかないところにひっそりと置いといてくれ」

何が悲しくて自分の、しかもボタンを飾られないといけないんだ。

「タカくん」
「何だ?」
「このボタン、このみのお守りとしてずっと大切に持っているよ」
「ん、そうか・・・」

そういわれると少し気恥ずかしかった。

「それじゃあ、それは俺の身代わりってことだな?」
「う〜ん・・・それは違うよ、タカくん」

このみは俺を見ながら、

「だってタカくんの代わりなんて存在しないもん」
「ま、そうだな」

俺が何人もいたら怖いしな。

「これはタカくんから貰った大切なものの一つとして大切にするね、ずっと・・・」

目を瞑りながら呟いた。
このみは何で俺のボタンなんて欲しがったのだろうか?
このみにとって俺から貰ったボタンはどういう意味をもってるんだろうか。

(まあ、このみのことだし、たいした意味も無いだろうな)





しばらくしてこのみが目を開けると、

「でもさ、タカくんって明日からお休みなんだよね・・・羨ましいな〜」

いつも通りのこのみに戻っていた。
しかし、本当に羨ましそうだな。

「卒業式が終わったんだから学校に行く必要が無いからな。
まあ、おかげで明日からゆっくり寝ることが出来るしな」
「む〜、タカくんずるいよ〜」

そんな事、俺にいわれても困るんだが・・・

「タカくん、明日もこのみと一緒に学校まで行こうよ」
「嫌だ、俺は昼まで寝るからな!
だいたい俺は学校行っても意味無いし・・・」
「途中まででもいいから!」
「いや、だから俺は嫌だって・・・」
「むぅ〜、だったらこのみもタカくんが来てくれるまで寝るもん!」
「そんなん駄目に決まってるだろう」

大体、春夏さんがそんなこと許すわけないんだけどな。
このみはムッとした顔をしながら、玄関のドアを向かっていった。

「それじゃ明日の朝きちんと来てね、タカくん!」
「ああ・・・って朝は嫌だからな」
「えへへ〜」

俺の言葉を無視するかのように家の中に入っていった。
あの様子だと、行ってやらないときっと学校に行かないぞ。

「せっかくの春休みなのに明日も早起きなのか・・・」

少しだけ憂鬱になりそうだった。













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