その笑顔を見れて











「う〜ん・・・」

あたしは商店街のど真ん中で歩きながら考えていた。
一体何について考えていたのかというと、

「お姉ちゃんの誕生日プレゼントか・・・」

あたしの呟きで分かるとは思うけど、私が考えていること、
それは明日の姉の誕生日に贈るプレゼントのことであった。

「う〜ん・・・」

どんっ

ボーっと考えことをしながら歩いていたために、誰かにぶつかってしまったみたいだ。

「あっ、すいません。考え事しながら歩いてたので・・・」
「あっ、こっちこそすいません」

ぶつかった相手に謝りながら顔を見ると、

「って貴明じゃないのよ!」
「ん? 郁乃か。こんなところで何してるんだ?」
「別に〜。でも、あんただったら別に謝らなくてもよかったじゃん」

あたしの謝罪の言葉を返して欲しいわ。

「それはどういうことだよ」
「別に〜、言葉通りよ」
「で、さっきの質問には答えてくれないのか?」
「ちょっとぶらついてただけよ。そういうあんたは何してたのよ」
「・・・郁乃と同じ理由だな」
「むっ」

まるであたしの行動なんてお見通しといわんばかりの発言に
少しだけ悔しく思ってしまう。
まあ、少し考えれば気付かれるんだけど。

「それじゃあ、俺は今から用事があるから・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」

何処かに行こうとした貴明を呼び止めた。

「ん、何だ?」
「あ、あんたお姉ちゃんの誕生日プレゼント探してるのよね?」

あたしが聞いたことに対し、ワザと考える振りをしながら、

「そうだな・・・」

と曖昧に答える。その答えを聞いて、

「じゃあ、ちょうどあたしも探してるところだったから一緒に探そ」
「郁乃もそうだったのか?」

あたかも知らなかったかのように驚いていた。
そんなわざとらしいアクションにちょっとムッとなってしまう。

「別にかまわないよ」

まあ、実際のところ、いざという時の資金源と考えての発言だったんだけど。

「・・・金は貸さないからな」
「! そういうわけじゃないわよ!」

図星だったため、思わず大声でいってしまった。
そんなあたしの姿を別に気にするでもなく、

「んじゃ、行くとするか」
「・・・ん」

自分から振っておいて、その反応は無いんじゃないの?
何だか敗北感たっぷりで貴明の後をついていった。







その後、貴明と色々と回ったが、なかなかこれ!というものは見つからなかった。

「郁乃は何か見つかったか?」
「ん〜・・・」

よくよく考えれば、姉に誕生日プレゼントなんて贈ったことがないことが余計に悩ます一因となっている。
ここは一つ参考に聞いてみることにした。

「そういえば、あんたは去年何贈ったんだっけ?」
「俺か? 確かケープだったかな?」

ああ、そういえばそんなものを持っていたわね。
少し考えると、貴明らしくないというか、何というか・・・

「それと・・・ブルーベリーベーグル」
「・・・そっちのほうは物凄くあんたらしいって感じね」

食べ物の名前が出てきて、思わず笑ってしまった。

「笑うことはないだろ」
「ご、ごめん。何かあんたらしいと思ったら・・・くく・・・」

笑いを堪えているあたしの姿に少しムッとしていた。
これでさっきの仕返しになったかな?

「今年は違うものにしようと思ったんだが・・・
なかなかいいものが浮かばなくて」

真剣に考えるその横顔を見ると、
姉のことをホントに大切に思っているとよくわかった。
まあ、そうじゃなかったら蹴り飛ばしてるけどね。

「う〜ん・・・あっ」

行き詰っていたあたしはとあるものを見つけ、立ち止まった。

「どうした?何か目ぼしいものでも見つかったか?」

そういいながら、あたしが見ていたものを見た。

「ふ〜む、なるほど・・・」
「あたしはこれなら喜ぶと思ったけど、あんたはどう思う?」
「これだったら愛佳も喜ぶと思うぞ」

さすがあたし。
まあ、貴明に聞く必要も無かったんだけど、念のために聞いておいた。
しかし、大きな問題があった。

「・・・・・・」

値段を見ると、やはりそれなりの値段だった。
私が見ていたのはその店の中でも安いほうだったのだが、それでも高かった。
お金はこの日のために貯めていたものでもギリギリなんだけど・・・

「郁乃、これにするのか?」
「う、うん。でも・・・」

金銭的なことを考えてなかなか決断することが出来なかった。

「もしあれだったら、半分出すぞ?」
「えっ!? でも、あんた金は貸さないって・・・」
「ああ、でも誰も払わないとは言ってないぞ。
まあ、便乗する形になるけど、俺もこれがいいと思ったから出すことにしたんだ。
だから気にするなって」

もしかすると、最初からあたしが選んだプレゼントにするつもりで、
お金も出すつもりだったのでは・・・と勘ぐってしまった。
でも、貴明の意見を素直に聞き入れることにした。

「どうせなら全部出してくれたらいいのに・・・」
「それじゃあ、『郁乃の』プレゼントにはならないだろ」
「冗談よ。ちゃんと払いますよ」

店員に声を掛け、商品を出してもらう。

「しかし、これなら二人のプレゼントって言っても違和感無いな」
「そうね。あたしはそういうつもりでこれを選んだわけじゃないけどね」
「そんなこと分かってるって」

商品を包んでもらい、お金を支払い、お店を出た。

「でも、貴明よかったの? あたしと一緒で」

こいつだったら、アクセサリー等を贈ってもいいと思うのだけど・・・
姉は喜ぶと思うし。

「愛佳には郁乃のプレゼントで喜んで欲しかったんだよ、俺は。
多分、今まで愛佳の誕生日をきちんと祝ってやったことなんてないだろ?」

そう言ってから、

「ホントは俺も別のプレゼントを買うつもりだったんだけどな」
「・・・あんたも言うようになったわね」

少し見透かれた気がしてムッとなった。
商品を受け取った後、店の外に出る。

「このプレゼントを受け取ったときの愛佳の驚く顔が楽しみだな」
「それには同意するわ」

姉の驚く顔を思い浮かべ、あたし達は笑っていた。

「いいプレゼント見つかってよかったな、お姉ちゃんっコ」
「う、うるさいなぁ〜!」








次の日、
あたしの家、小牧家で姉の誕生日祝いが行われた。
料理は母親作のもの、出来合いのもの、
ケーキはあたしが以前、頼んでいたものだった。

「たかあきくん、郁乃ありがとね〜」

姉の感謝の言葉に胸が熱くなった。
パーティーも順調に進み、終盤に差し掛かっていた。

「それじゃあ・・・」

貴明があたしに目で合図をした。

「お、お姉ちゃん・・・」

あたしは隠してあったその包みを取り出し、
無言で姉の前に出した。

「い、郁乃。これは・・・?」
「お、お姉ちゃんへの誕生日プレゼント・・・」
「そういうこと。俺と郁乃、2人からのプレゼントだ」

姉はあたしからその包みを貰うと、

「ありがとね、ホントに大切にするから・・・」

姉は驚きながらも喜んでいた。
あたしと貴明としても嬉しかった。
一刻も早くその中身を確かめたいというオーラが出ていた。

「あ、開けてもいい?」

貴明が無言で頷いた。あたしも頷いた。
姉が開けると、そこには・・・

「これって、ティーセット・・・?」

そう、あたしが選んだのは花がプリントされているティーセットであった。
姉は驚きながらも喜んでいるみたいなので、とりあえずよかった。

「でも、高くなかったの?」
「お年玉とか残してたから大丈夫よ。
それに貴明も出してくれて半分で済んだし」
「もう、郁乃ったら・・・」

少しだけど目に涙を浮かべながら言っていた。
そんな姉の姿にあたしも少し涙ぐみそうになったけど、我慢した。

「今度お茶を入れるときはこのティーセットで入れてあげるね」

実際、かなりの出費であったことは事実だった。
そのことはきっと姉は察知しているに違いないけど。
それでも、そんな姉の嬉しそうな顔を見たら、
あの出費も全然苦痛には思わなかった。

「でも使うのはもったいないから・・・」

まるでさっきのは無かったことになったかのような発言だった。

「そう思う気持ちは嬉しいけど、せっかく買ってきたんだから使ってよね」
「う〜でも〜」

あたし達のやりとりを苦笑しながら見ている奴がいた。

「ちょっと貴明! なんで笑ってるのよ!」
「いや、去年のそうだったな〜と思い出したら思わず・・・な」
「ふふっ」

そんなあたし達を見て今度は姉が笑っていた。
あたしはどうやら今日は一日突っ込み役のようだ。
そして姉はあたしを見ながら、

「郁乃、郁乃の誕生日のときにはもっとすごい物贈ってあげるね」

笑顔の姉の言葉に私の心は少しの不安と
それを遥かに上回る大きな楽しみで一杯になった。














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