ふと目を覚ましたら校内は騒がしくなっていた。

「授業終わったのか…」

その日の午後は授業は出ないまま終わった。

「そういや放課後に春原と今後どうするか話すんだったな。」

そんなこと言ってたな、確か。

「でもちょっと考えれば、春原と話し合ったところで
何も浮かぶはず無いじゃん。」

隣を見ると春原(外見は俺だが)が熟睡していた。

「今日はいいや。さっさと帰って寝て、明日考えよう。」

正直なところ面倒だっただけだ。



  






  朋也の春原な日々   第3話










春原の部屋に帰ってしばらく経って春原がやって来た。

「勝手に帰らないで下さいよ。せめて起こしてくださいよ。」
「いや、一応起こしたぞ。杏が辞書で殴っても、智代が蹴り上げ続けても
起きなかったから仕方なく置いて行ったんだ。」
「そんな起こし方有り得ませんよね。それに起きても気絶してますよね。」
「冗談だ。そんなことする訳無いじゃん。」
「そんな事する訳ないよね。」
「ああ、自分の体が大切だからな。」
「僕の心配してくださいよ。」
「安心しろ。そんなことは無かったからな。」
「どういう意味か気になるんですけど。」
「全ての意味でだ。」
「それって僕の心配はしないって意味もあるってことじゃないですか。」
「心配する必要なんてないだろ? 絶対大丈夫だし。」
「ううう、もういいっすよ…。それより、放課後話し合うんじゃ無かったんですか。」
「俺らが話し合っても何も解決しないということが解ったから、
明日知り合いにでも相談する。」
「もしかして藤林杏にか?」
「いや、杏に相談しても前進しないだろう。だからもう少し可能性の高い方に当たりたい。
だから、このことは明日以降にしよう。それまでは俺に成り切れ。」
「解ったよ。」

その後、いつも通りの夜が終わっていった。
…目の前に俺の姿をした春原がいること以外は。




次の日、早めに学校へ行った。
別に授業に出るためではない。ある人物にあうためだ。

「っていうか最初からここに来りゃよかった気がするんだが…」

俺は図書室の前にいた。
そう、ここには全国模試トップクラスの秀才のことみがいる。
俺と春原の二人で考えるより、遥かに確率あがるだろう。
ガラララッ
図書室に入る奥を見ると、やはりことみはいた。お約束通り、本を読んでいた。
見ててもしょうがない。とりあえず呼ぶか。

「おーい、ことみ。」

ことみは気付かない。まあ、いつも通りだが。

「ことみ、ことみ、ことみ。」

連呼してみたが、やはり気付かない。

「……ことみ?」

ためてみてもやはり気付かない。当たり前だが…いつも気づかないし。
さて、いつものように呼ぶとするか。

「ことみ…ちゃん。」
「朋也…くん?」

よし、気付いた。これもいつも通りだな。
ん? 何かことみの様子が変だな。



「朋也くんじゃ…ないの。あなたは誰なの。」

ことみが驚きの表情をしている。何言ってるんだ? 俺は岡崎朋也だぞ。
…姿が春原であること以外は。



…ってそれは物凄い重要な事じゃないか。しくじった。
どうする。…何もいい方法が浮かばん。とりあえず直球勝負だ。

「ことみ、姿は別人だが実は俺、岡崎朋也なんだ。」

直球どころか、ど真ん中じゃないかよ。
こんなのさすがに信じるやつこの世にいないだろ。

「…本当に朋也くんなの?」

ああ、信じかけてるよ。俺はことみを甘く見ていたのか。

「ああ、そうだが。」
「でも、本当なの。」

まあ、さすがに信じないか…なんか証拠でもあれば

「ちょっと待ってろ。」




図書室を出て校舎に行くと、偶然遅刻して来た杏にあった。
事情を説明し、図書館に連れてった。
図書室に連れてった後、杏の説明により、
俺が岡崎朋也であることをことみに納得してもらった。
何か説得中に杏が不審な行動をしてた気がするが…
俺の気のせいだろう。見なかった事にしておこう。
簡潔に言うとことみちん、ピンチ。という感じだった。

「杏ちゃん、いぢめっ子?」

ことみちんことことみは、マジ泣き寸前である。

「あはははは…」

狂…じゃなくて杏は笑ってごまかしている。

「まあ…とにかくことみは分かってくれてよかったよ。
しかし、まさかこんな所で杏にばれたことが役に立つとはな。」

世の中何があるか分からないな。

「そんな事より、早く事情をことみに説明しときなさいよ。
なんであんたがそんな姿なのかを。
まだ、あんたが朋也であることしか言ってないわよ。」
「どうしてそんな姿をしてるの?」
「そうだったな。まあ、好きで
こんな格好しているわけではないのは確かなんだが。」

そして何でこんな風になっているかを説明した。




「………」

ことみは一通り聞いた後、少し考えて、

「朋也くん。」
「ことみ、原因が解ったのか。」
「はっきり言って分からないの。」

ああ、ことみでも分からないのか。これで一生俺は春原の姿で生きていくのか。
俺の中でこの後のヘタレと言われ続ける人生が…

「でも、元に戻る方法はあるかもしれないの。」
「そうか、やっぱりあるのか…ってことみそれ本当か?」
「あくまで可能性だけども。」
「いや、可能性だけても嬉しいぞ。」

俺の中では祭が起きるくらいの衝撃だ。

「ちなみにもう一度頭を打ってみるという案はもう実践済みだからな。」
「分かってるの。ちゃんと考えるの。
でも、時間がとってもかかるかもしれないの。」
「ってことは、暫くはこれで生活しないといけないのか。」

まあ、戻れる可能性があるだけマシなんだが。

「それじゃ頼んだぞ、ことみ。それでも出来るだけ早めに頼むぞ。」
「任せてなの、朋也くん。」

ことみが笑顔で答えた。やばい、すごい可愛い顔してる。
思わず抱きついてやりたいぞ。
だが、隣の人が制裁を加えかねないので、グッと我慢する。
かわりに頭を撫でてやった。

「あっ…」

ことみは恥ずかしそうに俯いたが、とても嬉しそうだった。




『さっそく調べたりしたいから、
残念だけど今日はここでさよならなの。』

ことみにそう言われその後すぐに別れた。

「まあ、良かったじゃない、朋也。あ、今は陽平だったわね。」
「…止めてくれ。せめてこういうときくらいはその事実を忘れさせてくれ。」

この人の皮を被った悪魔が…。

「…朋也、沈むなら太平洋側か日本海側のどっちがいい。」

どうやら感づかれたらしい。辞書が飛んでくる間近だ。

「俺が悪かった。だからあまり陽平とは呼ばないでくれ。」
「…分かったわ。でも万一戻れなかったときはどうするつもりなの?」
「あまり、いや絶対に考えたくはないが、
その時は春原で頑張って生きてくしかないな。」

まあ、不本意だがそうするしかないだろう。
それに死んでみるという選択肢も無いこともないが、
さすがに春原の妹の芽衣ちゃんが哀しむだろうから。

「でも陽平の姿じゃあ女の子にはもてないわね。」
「そんなこと今考えてもしょうがない。
とにかく元に戻れることを祈るしかない。」
「まあ、そうなんだけど。」

とりあえず、このことは春原が来たら言っておくか。

「とりあえず、次の時間からは授業出ときなさいよ。」
「分かったよ、仕方ないな。」
「あんたは陽平になっても一応学生なのよ。そこん所は忘れないでよ。」

全く、俺がどうしようが勝手なんだが。

「ところで朋也、今日の昼はどうするの。」
「昼? 春原が来ても多分屋上で食べるだろうな。
人がいるところだと、飯も安心して食えんし。」

名前を呼ぶのに気を使いながら飯を食ってもうまくないし。

「じゃあ、私も屋上で食べるわ。」
「俺はかまわないが…」
「じゃあ、昼になったらすぐに来なさいよ。
陽平がいたら連れて来てもいいから。
来なかったら…日本海溝に沈めるからね♪」
「…パンを買ったらダッシュで向かわせてもらいます。」
「じゃあ、お昼にね。」

杏はそういって自分の教室に戻っていた。

「何考えているんだ、あいつは。」

一つ分かっていることは昼に行かないと命が無いということだ。
昼飯は屋上で食うことにしよう。




「あ、杏ちゃんおはよう。今日は遅かったね。
もう午前は一時間しかないよ。学校休めばよかったのに。」

教室に入ると仲のいい友達が話しかけてきた。

「そういえば杏ちゃん、廊下で金髪の髪の男子と話してなかった。」
「うん、朋…陽平とね、ちょっと…」
「あ、杏ちゃんもしかして…」
「あー、今あんたが考えたことは無いから。」
「な〜んだ。杏ちゃん外面はいいんだから
大人しくなればモテそうなんだけどな。」
「どういう意味かしら。」
「あはは、何でもないよ。杏ちゃんかわいいのに
何で彼氏作らないの。実は好きな人いるとか。」
「へ? いいいないわよ、そんなやつ。」
「怪しいな〜、どうなの、杏ちゃん。」
「どうもしないわよ、ほら、もう授業始めるから座りなよ。」
「遅刻してきた委員長には言われたくないわよ。」
「うっ…」

そういいながら彼女は席に戻った。
ううう…疲れた。




昼飯になって春原が登校してきてたため、道連れにして
パンを買って屋上に行き、杏と飯を食べた。
そこで図書館であったことを話しておいた。

「というわけだ、春原。まあ、あとはことみ次第だ。」
「ふ〜ん、つまりしばらくはこのままか。」
「そういうことになるわね。」

ニヤつきながら杏が答えた。

「そういうわけだから、くれぐれも変な行動起こすなよ。」
「僕はいつも普通の行動を心がけてるんだけど。」
「普通なぁ…」「普通ねぇ…」

俺が杏が同時に言った。

「何で二人とも何言ってるのって顔してるんですか。」
「まあ、んなことはどうでもいいんだよ。」
「どうでもいいって…」

イジケ春原。俺の姿でいじけるなよ。

「もうすぐ、テストがあるんだぜ。」
「ああ、そうだな。」
「くれぐれも赤点だけは取るなよ。もしとったら…杏。」
「溶かした鉄を口から入れてあげるわ。」
「ひいいいぃぃぃぃ。」

恐ろしい笑顔の杏の言葉にびびる春原。

「って杏には関係ないですよね。僕と岡崎の問題じゃん。」
「いや、杏がいれば春原も死ぬ気で勉強するかと思って。」
「朋也、それってどういう意味よ。」
「言葉通りだ。気にするな。んでどうなんだ、春原。」
「大丈夫だよ。僕が本気を出せばそんなの楽勝だよ。」
「じゃあ…杏。何か問題出してくれ。簡単なやつでいい。」
「何であたしが…じゃあ陽平、
ヘタレのあんたが今したいことを英語で言ってみなさい。」

それって問題じゃないよな、杏。

「ヘタレって言うなよ杏。
こうなったら、言ってあげますよ。
『You kill me.』」
「「・・・・・・」」

こいつ本物の馬鹿だ。

「ちなみに聞くが春原、それってどういう意味か知ってるのか。」
「岡崎こんなのも知らないのか。簡潔に言えば
『お前を殺す』って意味だよ。」
「…杏。本当の意味を実体験で教えてやってくれ。」
「分かったわ。」

右手に百科事典、左手に六法全書を構える杏。

「え、それってどういうことっすか。」

小刻みに震えだす春原。以前見たボタンのマッサージ以上の震えっぷりだ。

「陽平、『You kill me.』っていうのは」
『あなたが私を殺す』っていう意味。つまり陽平、あんたは
私があんたを殺すと言ったのよーーーー。」
「ひいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーー。」

遠くから春原の断末魔が聞こえてきた。…実際は近くだが。
しかし、春原があそこまで馬鹿とはな。いや知ってはいたが。
俺に戻ったら補修地獄というのはいやだぞ。
何でよりによって春原と変わっちまったんだよ。いや今更なんだが…
というか俺もあまり人の事言えなかったわ。ははは…










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 TK「ことみちん、初登場なの。」
 ことみ「なのって言わないでなの。」
 朋也「だーー、うざすぎだ、お前ら。なのなの言うな。」
 TK、ことみ「すいません。」「ごめんなさいなの。」
 杏「でも、この話見るかぎりでは、
  ことみが次に出るのは最後のほうじゃない。」
 TK「そうなっちゃいますね。多分…」
 ことみ「……いぢめっ子?」
 TK「でも、今後も出番あるかもね。
   それに私は春原くん以外は虐めませんから。」
 陽平「さにげなくすごいこと言っちゃってますからね。」
 朋也「そんなことより…このままでは俺の人生が…
   春原の頭は大丈夫なのか?」
 TK「次回の見所です。」
 杏「まあ、やらなくても結果は見えてるけど。」
 朋也「分からんぞ、奇跡的に何かの間違いで
   奇跡がおきるかもしれない状況が奇跡的にも遭遇するかもしれないぞ。」
 陽平「どんなに低い確率ですか。つーかほぼゼロじゃん。
   そんなに絶望的なんですか、僕の頭は。」
 杏「馬鹿は死んでも治らないからね。」
 ことみ「……この人は馬鹿なの?」
 朋也「そうだぞことみ、こいつはキングいやゴッドオブ馬鹿だぞ。」
 杏「そして、ゴッドオブヘタレよ。」
 陽平「うわわわぁぁぁぁぁーーーーーん。」
 ことみ「あ、泣いてどこか行っちゃったの。」
 TK「あんたらもう少し後書きらしいこと言ってよ。」
 杏「あんたには言われたくないわよ。」
 ヒュン、ドゴ
 TK「グハッ。辞書投げないでくださ……」
 朋也「でも次の後書きで会いましょう。」
 ことみ「後書きじゃないの、これは。」
 杏「ことみ、それを言っちゃあ駄目よ。」



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