次の日…
「今日の体育は明日のスポーツ大会の競技の練習でもやっててくれ。
体育館も自由に使っていいからな。では解散。」
そういうとさっさと日陰に行ってしまった。
「あの体育教師、これじゃあ給料泥棒じゃないのか…」
まあ、俺としては教師にあーだこーだ言われるよりもいい。
「さて、俺は体育館にでも行くか。」
そう思って体育館に向かうことにした。
「陽平ー。」
そこで杏の声が聞こえた。
「ん、杏か…何でお前がここに居るんだ。」
「あんた鳥頭なんじゃないの。
私とあんたのクラスの体育の時間が同じだからに決まってるでしょ。」
「そういわれればそうだった気もするな。」
確かに杏のクラスとは同じだった気がするが。
「だいたいいつも男子と女子に別れてやってるから、気にした事もねえよ。
で、俺はここにいる理由を聞いてるんだよ。授業じゃないのかよ。」
「んー、あんたと大体同じ理由よ。」
「という事はお前らの方も自習みたいなもんか。」
そうよ、といった感じで頷いた。
「やる気あんのかよ、うちの体育教師どもは…」
「それであんたは今から何処に行くつもりだったのよ。
もしかして屋上に寝に行くとかじゃないでしょうね。」
「それは考えて無かったな。よし、そうしよう…
なんて事は駄目だよな、学生としては。」
そうよね、と笑顔で言いながら頷く杏。
屋上で寝るなんて言った瞬間、俺に辞書投げるつもりだっただろ。
「で実際は何処に向かってたのよ。」
「…体育館にこれから向かうつもりだったんだよ。」
「ふーん、私もそのつもりだったのよ。じゃあ行きましょう。
そういえば、朋也は何処にいるのよ。」
俺が指差した先には岡崎がリフティングをしていた。
まあ、外見は俺だが、実際は春原なんだがな。
ちなみにリフティングは結構続いている。
他のやつも驚いている。
「あいつ結構サッカー上手いのね。」
杏もちょっと感心している。
「まあ、ヘタレても元サッカー部だからな。
やる気さえあれば現サッカー部員にもひけをとらないだろう。」
「そうね。じゃ私達も体育館に行きましょ。
ちょっと朋也に教えてもらいたい事があるのよ。」
「別にいいが…俺の事を朋也と呼ぶなよ。ばれるから気をつけろよ。」
あっ、と声をだし
「ごめんね、陽平。」
と謝った。
「ったくな。誰も居なかったからいいものを…」
といいながら杏と共に体育館に向かって行った。
この時、ある人物が偶然その会話を聞いていた事に
朋也と杏は結局気付かなかった。
体育館に入るともう結構な人数が練習をしていた。
シュート練習をする奴や何人かでミニゲームをやってる奴もいた。
まあ、杏と喋ってたからしょうがないんだがな。
「んで杏。さっき教えて欲しい事があるって言ってたが
何を教えてほしいんだ。」
「んとね、バスケの事で教えてほしい事があるのよ。」
「別に構わないが…たかが学校行事ごときで
そんなに真剣にならんでもいいじゃないかよ。」
そんな事を聞いたような気がするが。
「まあ…ね。でもやるからには負けたくはないのよ。
それであんた昔バスケやってたでしょ。
だから、あんたに簡単に勝つ方法教えて欲しいのよ。」
「そう言われてもな…」
一言いっただけで勝てるようになるなら練習なんかいらないって。
その時、他の生徒が使っていたバスケットボールが転がって来た。
「委員長ー。ボール取ってくれよ。」
杏のクラスメイトらしき男子の声だった。
目線を下にするとボールが転がって来た。
「ちょっと待ってなさい。」
そういってボールを手に取り、その男子のところに投げた。
そのボールは見事にその男子の胸元に吸い込まれていった。
「ありがとよ、委員長。」
その出来事を見ていた俺は思わず言った。
「なあ、杏。」
「ん、何よ。もしかして必勝法見つかった。」
「見つかったというかもうあるというか…」
「はあっ? どういう事。」
「はっきり言うが、その遠投力があれば優勝できるぞ。」
そういうと、杏はちょっと驚いた顔をし、
「あっ、やっぱそう思う?」
と普通に返してきた。
「はあぁ? どういうことだよ。」
「あんたなら他の手が浮かぶかもって思ったのよ。
でもやっぱり私と同じ結論だったから。」
(じゃあ今までの会話いらないじゃん。)
「…じゃあ、もう自分のしたいことするから。」
「何するのよ?」
「とりあえず基礎的な動きでも…この体がついてくるか確かめたいから。」
そういって近くにあったボールで
軽くドリブルをしてみたりシュートを打ってみたりした。
…まあ、いけるのでは。
ヘタレっても運動部だった体だしな。
ちなみに杏はもういいのだろうか、見ているだけである。
「で、どうなの?」
「ん〜、やってみないと分からないが、そこそこはいけると思う。」
「じゃあ、明日の本番でも大活躍ね。」
「さあ、そこまでいけるかは分からんが…
いけるところまでは行ってやるよ。」
「私も応援してあげるから頑張りなさいよ。」
「いや、別にいいから」
「素直に応援されてなさいよ。」
「でもな…分かったよ、暇あったら来ても良いぞ。」
「も〜、素直にして欲しいって言えばいいのに…」
(つーか自分のクラスの応援しろよ。)
そんな感じで体育の時間は終わった。
夜…寮にて
「岡崎明日だね。」
「ああ、春原陽平の命日だったな。」
「僕生きてますからね!?」
「でも、本当に命日になるかもな。杏によって。」
「………僕、頑張るよ。」
「ああ…」
ビビリまくりながら本を読む春原。震えてるぞ。
おそらく最後の一夜を楽しく過ごしているのだろう。
俺もそろそろ春原への最後の言葉考えておかないとな。
そうしていよいよスポーツ大会当日が来た。
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