(早く点を入れてくれよ、全く…)

  それが今の僕の正直な気持ちだった。
  世界の司令塔とか言われてついついパスしちゃうけど、
  さすがに限界が近くなって来たんですけど…
  僕はあと何本外れたシュートを見ないといけないんですか。
  サッカーボールは何も言ってくれない。

  「ってこれじゃあ僕変な人ですよね!?」
  「どうした、岡崎。」
  「あ、何でも無いッすよ。」
  (こんなアホなこと考えるのも点が入らないからだよ。)

  そんなことを思っているうちに、相手が攻めてきた。
  僕は相手チームのボールを素早く奪い、
  すぐにドリブルで中央を突破していく。さすが僕って感じだな。
  そしてあっという間にゴール前…
  相手チームはDFが二人とGK。
  DFがすばやく僕に近づいてきた。
  咄嗟にフェイントをかけながら…右サイドにパスをした。

  
  そこには走りこんできたチームメイトがやってきた。
  これでキーパーと1対1の勝負。
  すばやくシュートを放った。
  
  バシッ
  
  でも、そのシュートは
  相手側のキーパーに見事にキャッチされていた。
  そして、キーパーはすかさずボールを前線に送った。

  (あ〜、そんな正直なシュートじゃ捕られるって。)

  大体、相手側のキーパーはサッカー部のGKだし…

  「すまんな、岡崎。」
  「ああ…まあ気にしなくていいよ。
  それより早くディフェンスに戻ろう。」
  「分かった。」

  僕が走り出すと、そのチームメイトも
  すぐにディフェンスに向かっていった。
  走りながら僕は考えていた。

  (…何で僕がディフェンスなんかしないといけないんだろう。)

  大体、点さえ入れてくれれば、
  僕がディフェンスにまわる必要なんか無いのに。
  もう10本くらいは外しているし…

  「…そろそろ限界なんだけどな、僕。」

  そんなことをボソッと呟いた。

  
  
  
  
  
  
  



  朋也の春原な日々 第12話
  
  



  
  
  
  

  
  古河に分かれた後、グラウンドにやってきた。

  「さて、どうなっているかな?」

  まあ、腐っても春原だ。おっと腐ってるものに失礼だな。
  なんにしても勝っているだろうな。

  「ん〜と、0−0か……って同点かよ!?
  しかも両チーム無得点って…」

  おかしいな、いくらなんでも春原がいて無得点ってのは…
  


  ふと試合を見ると、ちょうど春原がボールを奪って
  ドリブルで敵陣内に切り込んでいくところだった。

  「それにしても…相変わらず上手いな…」

  素直に思ったことを口に出していた。

  (って春原を思わず賞賛しちまった。
  ガッテム―――――ッ!!)

  心の中で思いっきり叫んでおいた。

  「ふぅ〜。」

  岡崎朋也、一生の汚点だな。
  意味の無いことを思ったお陰で嫌な汗をかいてしまった。
  そんなことをしている間に春原が敵ゴール近くまで来ていた。
  しかし、DFが二人春原の前に立ちはだかっている。
  春原はすかさず右サイドにパスをした。
  そのボールを走り込んで来ていた
  別のチームメイトがしっかり受けた。

  (おっ、上手い。やはり元サッカー部。)

  そしてシュート…
  

  だが無常にもそのシュートはキーパーに阻まれてしまった。

  「惜しかったな…」

  今来たばかりの俺にも春原たちが押しているようには見えるので、
  スコアが0−0であるという事は、
  多分ずっとこんな感じなのだろう。

  「岡崎も大変だな…」

  そう呟いた時、ふと春原の顔を見えた。
  その顔を見て俺は思った。

  (春原はもう限界って感じだな・・・)

  多分この試合を見ているもの、行なっている人のうち、
  俺以外は感じていないだろう。
  春原がもう臨界点突破寸前なのは…
  何といっても目が違うな。
  やる気の無い目、杏とかに脅された時の目、
  ふざけている時の目等どれにも当てはまらない目だ。
  

  多分そろそろ春原の本気が見れるだろう。

  「さて、これで少しは楽しめるかな。」

  って何か俺やな奴のセリフ言ってるよ。
  
  

  
  急いで守備に戻ったけど、ボールを奪う前に
  敵のチームにゴールを決められてしまった。

  「まだ、時間もあるし大丈夫だって。」

  クラスの一人がそういった。
  何処が大丈夫なんですか!?
  10本近くシュート外しているんっすよ。
  その点、相手は半分以下で1点取ってるんですよ。
  このままじゃ杏にコンクリで海の藻屑にされてしまいますよ。
  それだけは勘弁ですからね!?
  もう我慢できないですよね。
  
  もう限界ッス!!
  
  ピィ――――ッ!!
  
  試合再開のホイッスルが鳴った。
  時間はあと4分。
  それだけあれば十分だな。
  チームメイトの一人がボールに触れる。
  その瞬間、僕がボールを持って一気に敵陣に切り込んでいった。
  一番近くに居たFWをあっさりかわしていった。

  「「!!」」

  二人とも唖然としていた。
  すぐさまMF浸二人が立ちはだかった。

  「なめるなよ、このやろう。」

  でも、僕にとってサッカー部員でないこの二人はたいしたことは無い。
  少しフェイントかけてやったら一人が引っかかった。

  「な、速い…」

  残った一人は僕のスピードで引き離してやった。
  
  

  そして、ゴール前に近づいてきた。
  さっきと同じDF二人とGKだ。
  サイドに一人走りこんできている。
  僕はさっきと同じようにフェイントをかけた。
  相手はさっきのようにパスすると思っているのだろう。
  左右のパスも防ぎつつ、僕にマークしていた。

  「もうパスも通させないぞ。」

  一人がそういった。
  だから僕はそいつらにこういってやった。
  

  
  「パスなんて気にしなくていいよ。
  もうパスする気なんてさらさら無いからね。」
  
  

  そう言った瞬間、僅かにあいていた二人の隙間を
  一気に抜いていった。

  「「しまった!」」

  見事にハモるDF二人の声。
  哀れな二人だね。
  そして、いよいよキーパーとの一騎打ちになった。

  「これ以上は行かせねえからな。」

  相手は僕にシュートコースを減らすべく少し前に出てきた。
  
  「ふっ。甘いね、君も。」

  思わずそう漏らしてしまった。
  他のチームメイトならこれでシュートは決めれないだろう。
  でも、僕はこの状況でも決める自信があった。
  君が若干前に出てきたこと、
  それこそが運の尽きだったね。
  僕がシュート体勢に入る。
  キーパーが腰を下げシュートに備える。
  そしてシュートを放った。
  
  ポーン
  
  「なっ!」

  キーパーが驚きの声を上げる。
  僕が放ったシュートは普通のシュートではなく
  ループシュートだった。
  相手キーパーが慌てて下がり
  そのシュートを止めるべくジャンプをした。
  でもあと少しボールには届かなかった。
  僕の放ったシュートはゆっくりとゴールに入っていった。
  
  

  「…すげ〜な、岡崎…」

  グラウンドにはゴールを決めた岡崎(春原)が立っていた。
  しかし、そこに居たのはいつものヘタレではなかった。
  正にエースストライカーの春原だった。

  「……はっ!」

  俺は我に帰った。

  (いかんいかん、思わず春原がカッコよく見えてしまった!
  アレは幻覚だ!幻覚だ!………)


  
  
これで同点だな。あとは逆転するだけだ。
  相手は僕を避けるためにサイドから攻めてきた。
  ここは不本意だけど信じるしかないね。
  まあ、点入れられても取り返せばいいんだけどね。
  僕はセンターライン周辺にポジションを取った。
  

  相手がサイドからセンタリングをあげた。
  それをキーパーが相手が触れる前にキャッチした。

  「こっちにパスくれー!」

  すかさず声をかけた。
  キーパーが僕に向かってボールを蹴った。
  若干飛びすぎているけど、まあこんなもんだろ。
  そのボールを受け取ってチラッとゴールを見た。
  キーパーの位置、DFなどの位置を確認した。
  僕はそれを見て次の行動を決めた。
  DFが迫ってくる。
  その前に行動に移った。

  「えっ。」

  今度はロングシュートを打った。
  実はキーパーが結構前に出ていた。
  それを僕は見逃さなかった。
  キーパーは慌てて下がりボールを止めに行く。
  キーパーはジャンプした。が、届かない。
  しかし、シュートもわずかに高くボールポストにあたって跳ね返った。
  

  それも僕にとっては計算どおりだった。
  それを見越してゴールに走っていた。
  ポストにあたったボールをすばやくキープした。
  キーパーは僕の行動の早さにあせっていた。
  そして、今度は豪快にシュートを打った。
  キーパーは反応することが出来なかった。
  

  そのままゴールに吸い込まれていった。

  「よっしゃあー!」

  これで2−1でリード。
  残り時間もないから勝利はもらったね。
  
  

  
  春原がゴールを決めてすぐに試合が終わった。

  「……」

  (春原…一体お前は何者なんだよ…)

  そんなことを思ってしまった。

  「あれ、春原じゃん。」

  春原がこっちに向かってきた。

  「………」

  実は春原じゃないのでは…

  「え、僕のこと分からないの。」

  これも演技なのではないか?
  ここは一つ試してみるか…

  「あ、杏が辞書もってお前を狙ってるぞ。」
  「ひいいいぃぃぃぃ――――っ!!
  僕はまだ何もやってませんから。」

  ホントに怯える春原。

  「あ、嘘だからな。」
  「何だ、嘘だったんですか…
  って平気にそんな恐ろしい嘘言わないでくださいよ!?」

  あの驚き方で確信したよ。
  どうやらお前は本物だったようだ。いろんな意味でよかった。
  

  「陽平〜。」

  杏が声をかけてきた。

  「「あ、杏じゃん。」」

  しまった、ヘタレとハモっちまったよ。

  「・・・・・・」

  杏も蔑んだ目で見てるよ。

  「そういえば杏、試合はどうだったんだ?」

  とりあえず聞いておく。

  「もちろん勝ったわよ。」

  まあ、聞くまでも無かったか。
  何せお前に勝てそうな奴は滅多に居ないからな。

  「…何考えてるのよ。」
  「いや、別に…」

  凄い疑念の目で見てるよ。
  このままではまた試合前の二の舞に…

  「お前もこれで午前中は試合無いのか?」
  「ええ、あとは午後にあるだけよ。」
  「そうか…岡崎も試合ないし、これで全員午前は終わったのか…」

  しかも3人とも勝ち進んでいるよ。
  特にヘタレの勝利は予想外だな。

  「じゃあ、後は昼まで待つだけか…
  とりあえず涼しいところで寝てるとするか。」
  「僕もそうするよ。」
  「じゃあ、私はちょっと他をまわっているわ。
  じゃあ、お昼になったら屋上に来なさいよ。」
  「分かった、んじゃ行くとするかヘタレ。」
  「そうだね…ってヘタレ言わないで下さいよ!?」

  うんさっきのはやっぱり幻だったんだな。
  


  
  「さて…今から何処に行こうかな?」

  朋也たちと別れたけど、何処に行くかなんて考えてなかったわ。

  「私も朋也たちと一緒に行ってればよかったかな〜。」

  そんなことを考えていたら

  「杏、ちょっといいか。」

  声を掛けられた。

  「アンタ、智代じゃない。
  生徒会長のあんたが私に一体何の用なのよ?」

  智代はちょっと考えてから

  「実はあなたに聞きたいことがあったので…」
  「何を聞きたいの?」
  「その、実は信じられないことだから聞きづらいのだが…」

  智代にしては歯切れが悪い。
  いつもならもっとはっきり言うのに。

  「あんたにしては歯切れが悪いわね。」
  「まあ…な。」
  「ここではあんまり話せないことなの。」
  「そうだな…できれば話したくは無いな。」
  「…そう。じゃあ、人気のあんまり無いところ話しましょう。」

  智代が頷いた。
  そうして私と智代は歩いていった。
  
  
  
  
  
  
  




  第13話へ
  戻る





 朋也「非常に気になる終わり方だな。」
 陽平「まさかこの二人、喧嘩でもおっぱじめるつもりじゃ…」
 朋也「それより、今回はお前が活躍してるな。」
 陽平「読者も僕の活躍を待っていたから、
   みんな心酔してたんだろうね。」
 朋也「いや、読者はお前が悲惨な目に遭うことだけを
   楽しみにして読んでいるはずだ。」
 陽平「ヒドイッスね!? あんたは。」
 朋也「お前のヘタレた叫びを聞けなくてがっかりしているぞ。」
 陽平「叫びたくなるような目には遭いたくないですからね!?」
 朋也「でも、今回遂に智代も出てきたんだぞ。」
 陽平「・・・・・・」
 朋也「恐らくこれで春原死亡フラグが立っただろうな。」
 陽平「そんなフラグはいらないですからね!?」
 朋也「…お前のことは忘れないぞ。
   あ、お前の驚き方は忘れないぞ。」
 陽平「僕死ぬの決定なんですか!?
   しかもそんなことだけ覚えておくのはやめてくださいね。」
 朋也「ああ、春原はいい奴だったな…」
 故・陽平「もう死んでるんですか!?
     って名前の前に『故』とかつけないで下さい!?」
 朋也「頑張れよ…春原。」
感想、誤字等については拍手、メール、もしくは掲示板に…



back to top