ファミレスを出た後、(放置していた)春原と合流するため、寮に向かっていた。

「岡崎さんに会うのも久しぶりです」
「あ〜、そうだな・・・」

しかし、あれに会わすのは些か問題だよな。
とりあえず、出来る限りの先手は打っておくべきだよな。

「芽衣、一つだけ言っておかないといけない事があるんだ。
岡崎のことなんだが・・・」
「? 岡崎さんがどうかしたの?」
「ああ・・・実は少し前に頭を打っちまってな・・・」
「えっ!? そうなんですか!」

芽衣ちゃんが驚きの表情を見せた。

「だから、以前あった時の岡崎とは少し、いやかなり変わってるからショックを受けるかもしれない
でも、それを現実だと思って受け止めて欲しい」
「岡崎さん、そんなに変わってちゃったの?」

芽衣ちゃんが心配そうな顔をしている。
ああ、こんな健気な子にこんな顔をさせてしまうなんて…
俺はなんて罪な人なんだろう。

しかし、これもやむを得ないことなんだ。

「じゃあ、入るからな」

俺はドアを開け、部屋に入っていった。


背後から少しずつ迫ってくる者達に気付かないままで―――
まあ、遠すぎて気付かなかったんだが。











   朋也の春原な日々 第22話












「お〜い、岡崎いるかー?」

ところが反応が無い。
もしかしてこの俺をほったらかしにして何処かに出掛けたのか!

「お〜い、岡ざ・・・き・・・」

もう一度呼ぼうとして俺はそいつの存在に気付いた。
が、何故か真昼間から腹を出して大爆睡していた。
って腹出して寝てるんじゃねえ!
あとちょとパンツも見えてるじゃねえかよ!

(はぁ〜)

心の中で盛大にため息をついた。
とにかくこの場面を何とか芽衣ちゃんに見せないようにしなければ、
俺の評価は急落してしまう。

「あ、岡崎さん・・・」

バッチリ見られてるよ!ああ…俺は今日から
『真昼間からお腹出して寝てるおじさんみたいな人』
として見られていくことになるのか…
そんな春原に近い評価に成り下がるのは…いやだ!

「岡崎さんどうしたんだろう? こんな格好で寝てて・・・
まるでちょっと前のお兄ちゃんみたいな格好だね」

改めて思い出してみると…
こいつの寝てる姿なんて俺の記憶にインプットしてなかった。
芽衣ちゃんが言うのだから、きっと真実なんだろう。

「きっと、岡崎は色々あったから疲れてるんだよ」
「そうだね、岡崎さん頭打ったりしてるんだよね」
「ああ、だからこのまま寝かせといてあげてくれ」

主に俺のために! と心の中で付け加えておいた。

「岡崎さんと話せないのは残念ですが・・・仕方ないですね」
「運が悪かったな」

俺にとっては最高についてるぜ!
と心の中で叫んでおいた。
あとはこのまま無事に乗り切れることを信じるだけだ。

「そういえば今回はどれくらい滞在するつもりなんだ?」
「ん〜、多分2〜3日くらいだと思うよ
夏休みの宿題がまだ残ってるから」

舌をペロッと出しながら言った。
3日か…まあ、それくらいなら何とかなりそうだな。
…よっぽどのことが無い限り。

「今回は何処に泊まっていくつもりなんだ?」
「前回は岡崎さんの家に泊めてもらったから、今回はホテルに泊まろうと思うんだけど・・・」
「でも結構金掛かるんだろ?
それなら、決して綺麗とはいえないけど、この部屋に泊まればいいんじゃないか?」

俺の提案に芽衣ちゃんは凍り付いていた。

「お兄ちゃんがそんな提案をするなんて・・・ホントにどうかしたの?」

しまった!春原がそんな事言うはずないだろ、俺。
ここは春原らしい台詞を考えなければ…

「ああ、俺の寮に泊まってその代わりにホテル代に使おうと思ってたお金の半分を
俺が貰おうかと思ってたんだよ」
「なるほどね、お兄ちゃんらしいね・・・」

思わず苦笑していた。
しかし、俺としては一つだけショックなことがあった。

(春原の言いそうな言葉が簡単に浮かんでしまうとは・・・)

思わず死にたくなることだった。
ともかく誤魔化せたし、あとは何もなければ…

ドンッドンッドンッ!

不意にドアをノックする音が聞こえてきた。

「誰だ?こんな日に・・・」

俺が立ち上がって、ドアを開ける。

「今日は忙しいからまた後日にでも―――」

その後の言葉が続かなかった。
目の前の杏と智代がいたことに、
そして、これから起きるかもしれない俺の試練を思って。







「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ふぅ〜」

思わずため息をついていた。
よく分からないが、空気が重い気がする。特に御二方が。
それ以前に何故お前ら一緒に居るんだ?

ちなみに春原はいびきはかいていないものの安らかに眠っている。
こんな時はこいつの図太い根性が羨ましくなる。

「あなたってこいつの何なの?」

杏は俺に指を刺しながら、芽衣ちゃんに向かって聞いていた。
智代もそれが聞きたかったらしく、無言で座っている。

「初めまして。お兄ちゃんの妹の春原芽衣です」

それを聞いた瞬間、二人とも唖然とした顔になっていた。

「・・・ちょっと待っててね」

杏は何やら考え事をしているみたいだ。

「・・・それは本当なのか?」

いち早く現実に戻ってきた智代が俺に尋ねる。

「こんなことで嘘言ってもしょうがないと思うが・・・」

当時の俺からしたら、冗談にしても笑えない。

「・・・芽衣といったか、あなたのお兄さんと話がしたいので、
申し訳ないが少しの間外に出ていて欲しいのだが・・・」

芽衣ちゃんは少しだけ考え、

「いいですよ、私少し買いに行きたいものがありますので」
「いきなりこんな事を言ってしまってすまないな」

気にしていないのでいいですよ、と言いながら芽衣ちゃんは出掛けていった。
残されたのは俺と杏と智代、そして春原(睡眠中)だった。
俺もついて行きたかった。

「で、彼女の言ったことはホントなのか?」
「ああ、ホントだ」

ここで嘘を言っても俺には何のメリットも無い。

「しかし・・・ホントにこいつの妹? それにしては普通の女の子だったけど・・・」
「杏、お前の言うことも最もだ」

俺だって最初は信じれなかったしな。

「だがな、これは変えられない事実なんだ」
「分かったわ、あんたのいうことを信用しておくわ」
「私も朋也のいうことを信じる」

とりあえずこれで問題解決?

「それにしても、あんまり驚かないよな・・・」

てっきりここから飛び降りるくらい驚くかと思ってたぞ。

「う〜ん・・・驚きすぎてリアクション取れないというか、どうしようもないというか・・・」
「私はあまりの衝撃の事実に言葉を失いかけたぞ」

そんな風には見えなかったぞ。

「それであんた達のこと、バレてない?」
「一応はな、しかし芽衣ちゃんは春原と違って鋭いからな
ちょっと疑惑くらいはもたれてると思う」

若干俺が口を滑らせていることは伏せておいた。

「正直、ばれた時はばれた時で考えることにしてる
あとは・・・こいつが最大の不安要素だな」
「・・・そうね」
「朋也の指摘も最もだな」

俺たちは現在もぐっすり眠っている一人の最大の不安要素を見ていた。
まさに全身に火薬を塗りたくり、火の海の飛び込むようなものだ。

「正直、このまま眠ってて欲しいくらいだ」
「簡単よ?」「簡単だが?」
「いや、その方法だけはやめてくれ・・・」

このお二方の方法がすぐに読めてしまった自分が悲しい。

「間違って死んじまったらどうするんだ
さすがに死体と入れ替わりたくは無い」
「そんな事分かってるわよ」
「私もだ。杏と同じように思わないで欲しい」
「智代、それどういうことよ?」
「おい・・・」

やはり2人とも同類だ。

「それで芽衣ちゃん・・・だっけ? 何でこっちに来たのかしら?」

少し経ち、杏が忘れていたとばかりに聞いてきた。

「さあ?」

聞いたような聞いてないような…

「暇だったからじゃないのか?」

覚えてないので、無難な回答をした。

「暇だからって、こんな駄目な親類のところに来るなんて・・・何ていい子なのよ
陽平にはもったいないわ」
「春原という苗字にこんないい子が存在することに感動を覚えるくらいだな」
「智代、全国の春原さんに謝れ」

春原陽平(ヘタレ)以外のな。

「そろそろ芽衣ちゃんも帰ってくる頃かな?」



と言ったら、いいタイミングで帰ってきた。
ドアの前に張り込んでいたかのようだ。

「お兄ちゃんたち、ただいま」

しっかりと挨拶をしているところを見ると、
何度でもあの春原の妹とは思えない。
俺たちが何の会話をしていたかは聞いてこないみたいだ。

「それにしても、芽衣ちゃんは礼儀正しいのね。
まるでドラえも○とドラミちゃ○ね」

春原の妹、というだけで杏は興味津々みたいだ。
あとそのたとえは俺とだいたい同じだからな。

「あはは・・・よく言われます」
「しかしこんな奴が兄で色々体験だったのではないか?」

智代も会話に加わっていた。

「それもよく言われます・・・」

二人の質問に芽衣ちゃんは苦笑いだった。







夕方になり、

「あたしはそろそろ帰ることにするわ
今日は一日勉強するつもりだったけど、陽平の妹に会えたのはある意味貴重だったわ」
「そうだな、まだまだこの世も捨てたものではないな」

あの後、様々な質問をして大層満足そうな顔をして帰っていくお二方。
杏にはぜひともそのまま勉強していて欲しかった。
あと、芽衣ちゃんを珍獣扱いするなよ。

「二人とも物凄く綺麗だったね・・・お兄ちゃんとは全然釣り合わないね
そういえばさっきから岡崎さん全然起きないね」

あれだけ騒いでて未だに起きる様子の無い春原。
こいつの神経の図太さには尊敬を超えて畏怖さえも覚える。

「もしかしてこのまま起きないんじゃないのかな・・・?」
「いや、多分色々疲れてるんじゃないか?
このまま寝かせておいてやってくれ」
「う〜ん、それじゃあ私、今日はホテルに泊まることにするね」
「えっ、ここに泊ってもいいんだぞ? さっきもそういったし」
「でも岡崎さんが寝てるから・・・」

俺は暫し考えた。
こんな奴はさっさと追い出すという素晴らしい選択肢は残っているものの、
そんな事をしたら、さすがに色々疑念をもたれる危険性もある。
それにもし起きた時の第一声で爆弾発言でもされたら終わりだ。

「・・・芽衣がそこまで言うなら、今日はそうしていいぞ」
「じゃあお兄ちゃん、また明日ね」

芽衣ちゃんも何処かに向かっていった。

「ふぅ〜」

神経の疲れる一日だった。
とりあえず、初日は誤魔化しきれた。こんなのがあと何日続くんだ?

「・・・・・・岡崎」

唐突に俺を呼ぶ声が聞こえた。
その主はすぐに分かった。

「・・・何だ」
「もう芽衣たちは来ないよね?」
「・・・ああ、今日は来ないぞ」

それを聞いて、この部屋でずっと寝ていたであろう春原が起き上がった。

「・・・もしかしてお前狸寝入りだったのか?」
「そうだよ、ホントは起きるつもりだったんだけど、
あの二人が来たら起きたくも無くなるからね
寝たふりをしていたんだ」
「さすが春原・・・死んだ振りはお手のもんということか・・・」
「寝たふりですからね!?」

まあ、どっちにしてもこいつのおかげと言うのは激しく癪だが、
俺の名誉は守られたのだからいいだろう。

あと2,3日今日以上のない事だけを切に願った。











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 杏「最近更新遅くなってるわよ」
 智代「一年で終わらすつもりじゃなかったのか?
   いや最初は半年で終わらすつもりではなかったのか?」
 TK「様々な事情でやむを得なく遅れてるのです」
 智代「そんな言い回しは聞きたくも無い
   あと、どのくらいで終わるつもりなんだ?
   今回はさっぱり進んでないぞ」
 TK「あと・・・2話?3話?4話?それとも―――」
 どくしっ!
 智代「はっきりしろ!」
 TK「何言ってるんですか! 世界の優柔不断を集めたこのTKにはっきりしろなんて―――」 
 めごっ!
 杏「読者に謝りなさい!!」
 TK「・・・えへっ♪」
 杏・智代「死 ね !!!!」
 TK「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」



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