ウチは最初、何が起こったかわからなかった……、気がついたら貴明が血まみれになって倒れていた……。
血まみれの貴明を見た瞬間、体が震え出した。

「貴明〜〜〜!!死んだらあかん〜!貴明ぃぃ〜〜!」
「貴明さん!」
「タカくん!タカくん!!」

……ウチが車道に飛び出たから貴明が引かれた?
ウチの……ウチのせいで貴明が……。

「珊瑚様、このみさん落ちついて下さい!今救急車を呼びました!瑠璃様!!大丈夫ですか!?」
「……イルファ、ウチ……貴明を……」
「瑠璃様!!しっかりして下さい、瑠璃様の責任ではありません!」
「でも……貴明がウチをかばってぇ……ウチ……もう我慢でき……へんよ……」

我慢できへんかったウチに、イルファがウチを優しく抱き締めた。
ウチはイルファの胸の中で泣いた。
でもウチの泣き声も、イルファの呼んだ救急車のサイレンによってかき消された……。












姫百合姉妹の新しい日常 最終話












貴明の事故から約三時間が経とうとしていた……。
ウチらが待ってる間に、雄二に環先輩が合流していた。
さらに一時間が経とうとした時やった……。
集中治療室から医師が出てくるのが見えた。
ウチら皆が同時に立ち上がる。

「あの……先生、貴明さんは大丈夫なのでしょうか……?」

イルファが先に聞くと……、
医師は貴明の状態の説明を始めた。

「非常に言い難い事実ですが、河野貴明さんが助かる可能性は五分五分です。
今は深い昏睡状態に陥っておりますが、このまま目覚めない可能性が考えられます」

ウチは医師の言った言葉が信じられへんかった……。
貴明が……このまま目覚めない可能性があるなんて……。







次の日、ウチはさんちゃんと一緒に学校へ登校する事にしたけど……
なんで貴明が隣に居ないだけで、こんなに寂しくて辛いんやろ……。

「瑠璃ちゃん……早く貴明と一緒に学校行きたいなぁ……」
「……うん、ウチも貴明と一緒に歩きたい……」

ウチは学校に着いても、貴明の事が気になって、授業に集中できへんかった。
学校が終わるとウチらは病院に行って、病室に入ると……
貴明のクラスの委員長の小牧愛佳さんに、貴明の友達の長瀬由真さんがお見舞いに来ておった。
小牧さんと長瀬さんは貴明が事故にあった事を雄二から聞いて、ここに駆け付けたらしい。

「あの……河野君の意識が戻りましたら教えて下さいね、由真やみんなが心配していましたから」
「あたしは……別に愛佳の付き添いだもの、貴明のお見舞いじゃないから」

その後、長瀬さんと小牧かんは帰って、さんちゃんは途中から来たこのみと一緒に帰ってしもうたから、
今病室にいるのはウチと昏睡状態の貴明だけになってもうた。

「貴明……」

ウチは貴明が返事しないのは解るけど、貴明に話し掛ける。

「なんでウチをかばったん……本当なら、ウチが事故ってたのに……なんで貴明がこんな事になるんや……
貴明が居ないだけでこんなに寂しいんのは初めてや……だから貴明、早よ目覚まして」

貴明からの返事は来てくれへん。
そのかわりに聞こえてくるのは、貴明がまだ生きてる事を知らせる機械の音だけやった。

「……ほな貴明、また明日来るからな、待っててな」

ウチは泣きたかったけど、涙を堪えて貴明にそう言って、病室を後にした……。







その日から、ウチは病院に通い続ける事にした。
他人が見たら、飽きるかもしれへんけど、ウチは諦めたくあらへん。
もし、ウチが諦めたら貴明が亡くなってしまいそうで恐いんや……。







貴明が事故にあってから三ヵ月が経って、ウチらの学校で体育祭が開催された……。
ウチは、さんちゃんとこのみと同じ組やった。
お弁当はウチとさんちゃんとこのみと一緒に食べた……、
そういえば去年の体育祭は貴明も一緒にお弁当を食べたんやっけ……、
ウチとこのみと環先輩が作った貴明用お弁当を貴明が頑張って食べたんやったな……。
今年も貴明と一緒に食べたかったな……もし、貴明が居たら

『この弁当、とっても美味しいよ瑠璃ちゃん』

って言ってくれたんかな?貴明……




貴明が事故にあってからもう三ヵ月が経ったある日の事やった、昼休みにウチとさんちゃんは雄二に。

『わりぃけど、大事な話があるから珊瑚ちゃんと一緒に屋上来てくれねぇか?』

って呼ばれてから、ウチはさんちゃんと一緒に屋上に行くことにした……。


屋上に着くと、もう雄二が先に屋上にいた。

「話ってなにぃ?」

ウチが雄二に聞いてみると……雄二は俯きながら言った。

「あぁ……、今日担任から聞いたんだけど、貴明の留年が決まったんだ」
「留……年?」
「貴明……留年するん?」

貴明の留年が信じられへんかったウチは雄二と別れた後に、貴明の担任に聞いてみると、
雄二が言った通りやった……。
その日、ウチは急いで病院に向けて、駆け出す事にした。

貴明の病室に入ると、貴明は相変らず寝たきりやった。

「貴明……」

貴明の手を無意識に握ってみる。

「……貴明」

貴明の手……なんでこんなに……冷たいん。
そう思ってると、なんやか急に眠たくなってもうた。

「あれ?なんやか……眠たくなってもうた……少しだけやったら寝ても……ええかな」








気がつくと、真っ白な謎の空間に居た。

「此処は……?確か俺は、瑠璃ちゃんをかばって……瑠璃ちゃんの代わりに俺が引かれたのか」

そう思っていると、何処かから誰かが泣いている声が聞こえた。

「誰が泣いているんだ……?」

周りを見渡すと、一人の女の子が居た。

『……いやや……貴明……ウチらを……置いて逝かへんでぇ』
「……瑠璃……ちゃん?」

俺の声に気付いた女の子が顔を上げる。
その女の子は瑠璃ちゃんだった。

『た……貴明?ほんまに貴明なん?』
「そうだよ、瑠璃ちゃん。」

そう言って瑠璃ちゃんの頭に手を乗せようとすると……瑠璃ちゃんの頭に乗るはずだった
手は、まるで俺が幽霊であるかのように瑠璃ちゃんに当たらずに透き通ってしまった。
それと同時に、俺の体全体が時間が経つごとに透けてくるのがわかった。

『貴明……?なんで体が透けてるん』
「……ゴメンね瑠璃ちゃん。此処で……お別れかもしれない」
『いやや貴明!貴明と別れたくない!』

瑠璃ちゃんの声が徐々に小さくなる。

『貴明……ウチ…………まっ………』

瑠璃ちゃんの声が聞こえなくなると同時に、何かに掴まれる感覚がした。
次の瞬間、急に周りが真っ暗になって、俺の意識は突然途切れてしまった……。







「う……」

目を覚ますとまず視界に入ったのは白い天上だった。

「此処は……病院?……」

ふと前を見ると、瑠璃ちゃんが眠っていた。

「瑠璃ちゃん……」

無意識に、瑠璃ちゃんの頭に手を乗せてみる……。
今度はちゃんと、瑠璃ちゃんの頭に俺の手は乗っかった……。

「んぅ…………」

と同時に瑠璃ちゃんが目を覚ます。

「……誰?ウチの頭に手、のっけて…………」

瑠璃ちゃんが顔を上げると、瑠璃ちゃんはようやく自分の頭に手を乗っけている俺を見つける。
と同時に瑠璃ちゃんの瞳から涙が溢れる。

「た……貴明……やっと目覚ました」
「……瑠璃ちゃん」

「ゴメンね瑠璃ちゃん……今まで心配かけて」
「ほんまやな……。ウチ……本当に心配したんやからな。
……もう……貴明に……ひっく…………会えへんかと思ったら……ウチ」

途中から完全に泣いてしまった瑠璃ちゃん。
頬が赤くなる。
どうやって止めればいいのかな……。

「えっと……瑠璃ちゃん」

瑠璃ちゃんの手を引き寄せる。
そして、瑠璃ちゃんをぎゅっと抱き締める。

「ぁ……貴明……」
「瑠璃ちゃん……好きだよ」

瑠璃ちゃんを止めるには、これしか考え付かなかったのでやってみると……

「……相変らずスケベェやな……でも……ウチも好きや」

瑠璃ちゃんが笑った。
これからも浮かべるはずの笑みを。
俺はその笑顔をずっと守っていきたいと心から願った……。









三月。
まだ冷たい風が吹く日に、卒業式が行なわれた。
その日に俺を除く雄二や小牧に由真、笹森さん、草壁達三年生は卒業した。

そんな雄二達を遠くから見ていた俺に、瑠璃ちゃんが言った。

「貴明……残念やったな……ウチのせいで卒業できへんで……」
「ううん、これで良いと思うんだ瑠璃ちゃん。」

俺は瑠璃ちゃんの手を握って、瑠璃ちゃんに言った。

「俺がこうして留年したからこそ、瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんをもっと幸せにできると思うんだ。
俺がいなかった六ヵ月間……瑠璃ちゃんや珊瑚ちゃん達に寂しい思いさせたから、その償いをしたいから。
……たんなる予感だけどね。」
「……貴明、カッコつけすぎや」
「あ……やっぱりそうだったかな?」
「そうや!カッコつけすぎやほんまに」

瑠璃ちゃんの頬が赤くなる。
俺は握っていた瑠璃ちゃんの手を強く握った。

「貴明?」
「瑠璃ちゃん……俺、もう一年頑張るよ。」
「そうやな……貴明が決めたんやったら、それでええな。
頑張ってな貴明。」
「うん……ありがとう」
「おーい!貴明に瑠璃ちゃん、これから皆で遊びに行かねぇか!?」

ふと雄二を見ると、雄二が卒業証書を振りながら叫んでいた。

「行こうか瑠璃ちゃん」
「そうやな」

俺達は手を繋ぎながら歩きだした…………。








これから、また新しい学校が始まる。
その学校生活を瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃん達と一緒に悔いのないように頑張って行くことを
決意した。
そして、俺達三人の物語はまだ始まったばかりだ…………。







〜END〜














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<後書き>

こんにちわ、sibaharaです。
姫百合姉妹の新しい日常、遂に最終回が終わりました。
正直言いますと、巧く書けたか自信がありません、ですが感想を頂けたら、嬉しいです。


この物語はとりあえず終了しましたけど、アフターストーリーの作成を予定しています。
そちらの方もぜひ感想を頂けたら嬉しいです。


最後に、姫百合姉妹の長編ストーリーを書け終える事ができて本当によかったです。
皆様の応援があってこそ、この小説が完成したと思います。

本当にありがとうございました。



<管理人の一言>
とりあえずありきたりですが、感動しました・゚・(ノД`)・゚・
瑠璃ちゃんの貴明への想いが涙を誘ったよ…

このお話のアフターはかなり読みたいですね。
私、期待してます!



感想、誤字等については掲示板にお願いします。



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