その歓声のある方に向かっていく。
  (さて、一体何があるんだろうな。)
  そこはかなりの人が集まっていた。
  あまり人が多いところには行きたくなかったが、
  さらに近づいていった。
  そして、コートを見ると杏の姿があった。

  「…もしかしてあの歓声って…」

  何となく予想できたが、しばらく見ていることにした。
  そして、このあと何とも予想通りの光景が見られた。
  …俺の想像以上だったが。

  
  








    朋也の春原な日々 第9話











  「うりゃああーーー!!」

  ヒュン!

  バスッ

  「「「………」」」

  「「キャアーーー!! 杏先輩カッコいーー!!」」
  「ステキー! 杏先輩ーー!!」

  俺がそのコートを見たとき、杏がロングシュートを決めたところだった。
どうやらその歓声の矛先は試合中の杏への物だったようだ。
  この試合は杏の独り舞台らしい。
  後輩の応援も独り占めだ。
  明日、いや今日から後輩の女子からラブレター殺到だろう。



  「しかし…」

  ありゃあ、どう見ても凄すぎるだろう。
  センターライン周辺からドンドンゴールに投げて入ってるし…
  しかも、見たところ外してないじゃん。
  さすが、毎日辞書を顔面に投げ続けているだけはある。
  相手はボールを杏に渡したら敗北みたいなものだ。
  というかバスケ部の男子でもきついんじゃないか…
  しかも杏以外の女子も運動神経は悪くなくむしろいい。
  つまり普通の女子じゃあ勝ち目は無い。
  さて、こんなクラスに緒戦当たってしまった
  可哀想なクラスは何処なんだ。


  …3−Bか。
  ってよく見たら古河いるじゃん!?
  俺は全く気づかなかったぞ。
  正直すまない、古河。


  いや、違うな。
  古河が目立たないのではなくて、
  杏が目立ちすぎたから気付かなかっただけか。
  (…運がなかったな、古河。
  とにかく試合終了まで生き残れよ。)
  そういって試合終了までの古河の無事を何となく祈っておいた。




  ピピーーーーッ!!

  無事試合が終わったみたいだ。
  スコアは39−6

  「…俺の一回戦以上に点差開いてるじゃん。
  しかも純粋に得点も上だぞ。」

  10分で39点って…
  恐ろしいな。そして可哀想だな。




  「あれ、陽平じゃん。」

  そういってこっちに来た。

  「お疲れ…お前凄い活躍だったな。」
  「そう? そんな大した事はしてないけど…」
  「あれでか?」

  どこにセンターラインからのロングシュートを
  100%決める奴がいるんだよ。

  「しかし…お前のクラスに勝てる奴は居ないだろう。
  そんなのがいたらある意味怖いからな。」
  「それってどういう意味かしら。」

  笑顔の杏の手にはバスケットボールが…
  (…死ぬ!!)
  直感はそう告げた。

  「スイマセン、私が悪かったです。」

  そう…と残念そうにボールを置いた。

  「でも、正直な話お前のクラスの優勝は確実だろ?」
  「そう?」
  「ああ、よほどの凄い奴でもいない限り…」

  でも、そんな奴いるわけねえだろ…

  「さてと…」

  そういって立ち上がった。

  「ん、どこ行くのよ。」
  「ああ、岡崎の様子でも見に行こうと思って…
  さっき行こうとしたらここから歓声が上がったから
  こっちに来たんだよ。」
  「うーん、じゃあ私も行くわ。
  どうせすることもないし。」

  そう言って杏もついて来た。




  人がいなくなったところでふと思った。

  「なあ。」
  「何よ、陽平。」
  「最近なんだか春原である自分に
  違和感無く過ごしているのは俺の気のせいか?」
  「…あんた今更気づいたの?」
  「ぐわああぁぁぁーー!!
  このままでは駄目だ。
  今日から俺は岡崎で生きる。」
  「…でもそれって朋也の姿をした春原が春原で生きることになるわよ。
  あんた戻った時どうするのよ。」
  「…もう少し我慢します。」

  そういって春原のところに向かっていった。




  サッカーの試合が行われているグラウンドに行ってみると、
  既に試合は終盤というところだった。

  「もう試合終わりそうね。」
  「杏の所に行ってたからな。仕方ないって…
  で、試合状況はどうなっているんだ?」

  そういってスコアを見てみると、


  3−D 3−B
   4 − 1


  どうやら勝っているみたいだな。

  「思ったよりやるわね、あんたのクラス。」
  「そうだな。」

  そう思って肝心のグラウンドを見ると、
  春原が今、ボールをキープしているところだった。

  「あいつにこれ以上点取らせるなよ。」

  相手チームの一人が言った。
  だが、春原は難なく抜いていく。
  そして、ゴールに近づいて…

  「シュートだ!」

  春原がシュートを放つ。


  と思ったらそれはパスだった。
  キーパーは完全に裏を掻かれた。
  そして、パスを受けた奴のシュートは
見事に決まった。

  「ねえ、陽平。」
  「何だよ。」
  「あいつって昔はストライカーじゃなかったっけ?
  パスとかしなさそうな感じだけど、
  何であそこはパスしたんだろう。」
  「確かにな。」

  あいつは中学時代はFWとして活躍してたんだから
  シュートしてもいいはずだが…

  「まあ、深い意味なんて無いと思うが…」
  「そうなのかな…」
  「まあ、どうせ何かそそのかされたんだろう。
  なんたって単純ヘタレだし。」
  「そうね。」



  「ナイスシュート。」
  「おう、これも岡崎のパスがよかったからだよ。」
  「すげーな。さすが世界の司令塔だぜ。」
  「見事なキラーパスだったぞ。」
  「さすが背番号10が似合う男だぜ。」
  「え、そんなに褒めなくても…」
  そういっている春原の顔は凄く誇らしげだった。
  「さて、ドンドン攻めていくぞ。
  僕の世界レベルのパスでゴールを決めてくれよ。」

  (…岡崎ってあんなに単純だったっけ?)
  (さあ、あんまりいつも話してないから知らないよ。)
  (春原が単純ってのは知ってるけど…)
  (まあ、これで勝てるならいいじゃん。
  気にするなよ。)
  (そうだな…)




  結局、試合は5−1で俺のクラスの勝利だった。

  「あんたらのクラスやるわね。
  今のところ何処も負けてないでしょ。」
  「そうなのか?」
  「そうよ。
  私のクラスは男子はバスケは一回戦敗退だしね。」

  そういった杏の顔は笑っていた。
  ああ…E組の男子は制裁か?
  無事に帰ってこいと胸の中で祈っておこう。

  「おーい、そこのお二人さん。」

  そこに今頑張っていた春原がやってきた。

  「見てた、僕の活躍。」
  「ああ、見てたぞ。
  お前が丸くなってゴールに突っ込んでいったシーンを。
  まさに身も心もサッカーに捧げたって感じだったぞ。」
  「そんなシーン無かったですよね!?」
  「そりゃそうだ。さっき来たばかりだし。」
  「私もよ。」
  「ええ、じゃあ、僕の華麗な活躍見てないの。」
  「ああ、見る気も無かったし。」

  本当は見るつもりだったんだがな。

  「あんた酷すぎッスね!?
  親友の試合くらい見てくださいよ。」
  「え、俺の知っている親友は空に旅立ったはずだぞ。
  空にいる女の子を救うために。」
  「それ、別の話ですからね!?」
  「冗談だ、一応最後のシーンだけは見てたぞ。」
  「何だよ、そう言ってくれれば良かったのに。」
  「で、何であそこでパスなんだ。
  お前ならあそこはシュートするはずだぞ。」
  「最初は僕が直接決めてたんだけどね…
  まあ、僕は天才だからそうしないといけなかったんだよ。
  それ以上は秘密だよ。」
  「「…ふ〜ん。」」

  まあ、別に知りたくもないし。

  「取りあえずしばらく暇だろ?
  他の試合でも見に行くか。」
  「私はそれでいいけど…」
  「僕もそれでいいよ。」
  「んじゃ行くか。
  で、どの競技にする。」
  「バスケットでいいんじゃない。
  あれなら男女の試合見れるし。」

  春原も「いいんじゃない。」という感じで頷いた。

  「じゃあ、体育館行くか。」

  そういって3人で体育館に向かっていった。




  「そういえば、女子は今何処が対戦してるの。」

  春原がそう聞いてきた。
  男子の試合には興味が無いらしい。

  「確か今頃はあんた達のクラスが
  試合してるころだと思うわよ。
  あと、一年生じゃない。」
  「よし、早く行こうよ。
  一年生の初々しい姿を見に行かないぎゃ。」

  そういってた春原の顔に辞書が刺さっていた。

  「アンタ変な目で見てたら即制裁だからね。」
  「もう刺さってるからな。」

  ああ…だからそれ俺の体だから大切に扱えよ。

  「じゃあ、行くわよ。」

  そういって杏は先に行ってしまった。

  「あ、ああ。」

  俺も慌てて付いていく。

  「って僕を放置しないで下さいよ。」

  ヘタレは例のごとく即復活して追ってきた。
  最早人間ではないな。



  

  
  


  
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 陽平「僕の扱い少ないッスよね!?
   一応準主役なんですけどね。」
 杏「アンタはそれで十分な扱いよ。」
 朋也「良かったじゃん、一回戦で殺(け)されなくて。」
 陽平「それ字が違いますからね!?
   それになんで学校の行事で負けただけで
   そんな目に遭わないといけないんですかね!?」
 杏「それより、早く次の試合をしたいわ。」
 朋也「俺はもう負けでいいんだが…」
 杏「アンタは陽平以下…」
 朋也「よし優勝目指すか。」
 陽平「そこまで僕以下が嫌ですか!?」
 朋也・杏「「当然だな(でしょ)。」」
 陽平「相変わらずの酷い扱いですねえ!?」
 朋也「そんなことよりさ。」
 陽平「僕放置ッスか!?」
 (ドスッ!)
 杏「何なのよ、朋也。」
 朋也「…あ、ああ。
   うちの学校って一学年何クラスあるんだ。」
 杏「そんなの作者が知ってるはず無いじゃん。」
 朋也「5クラス以上はあるよな。」
 杏「まあ、適当でいいじゃん。」
 朋也「そんなんでいいのかよ!?」
 杏「いいんじゃない?
  という訳でまた次に。」
 朋也「…まとまってない後書きだな。」




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