夏休みに入って…
気付いたら八月になっていた。
と気付いたところで何も変わるわけじゃないのだが…

「・・・マジでやべーな、何もしてないよな、俺」

それだけは言っておきたかった。
もちろん、言った所で何も改善はされないがな。

(しかし・・・)

このままでは流石にマズイ気がしてきた。
起床時間は辛うじて昼前、…朝じゃないだけマシなのだが…
ただ、起きても何かする訳ではなくただダラダラと過ごし、
そして気が向いたら寝る。
こんなグータラ生活が続いている。
杏は勉強が、智代は生徒会の仕事が忙しいらしい。
ことみは相変わらず、俺達(正確に言うと俺)を戻すために頑張っている。
…この前、ゲーセン見掛けたがな。
春原は…居ても居なくても生活に変化はないだろう。
しかし、これでは春原がいるときと変わらない、
むしろ悪化しているとしか言いようがないのでは…

(まあ、暇潰しに掃除でもするとしよう・・・)

部屋を見渡すと、結構汚れていた。

「そういやーここの所掃除した記憶ないな」

正確にいえば、掃除なんて春原になってすぐに行った一回しかしてないのだが。このまま
だと春原菌もといヘタレ菌が繁殖してしまう可能性も否定できないな。

「・・・せっかくやるんだから、念入りに掃除するか・・・」

本当にそんな菌が存在してたら…
という不安を抱えながら、掃除を開始した。



『そんな菌存在してないよね!?』



何処からかわからないが、そんな遠吠えが聞こえてきた気がした。











   朋也の春原な日々 第20話











二時間後…

「・・・ふ〜、かなり綺麗になったな」

これでヘタレ菌もかなり駆除できたことだろう。
しかも、意外に汚れている所が多かったな。
以前の掃除の仕方は甘かったようだ。
これからは気をつけよう。

(まあ、もっとももう掃除する機会がない事を祈りたいが・・・)

しかし、こればっかりは俺にはどうしようもない。
ことみを信じるしかない。

「あとはあるだけバルサ○でも焚いて・・・ん?」

更なる滅菌をしようとしたら、ふと一枚のメモ紙が視界に入った。
以前、掃除したときには見た記憶はないな。
どうやら、今回の掃除で何処からか出てきたものみたいだ。
とりあえず拾って見てみる。

「何処かの電話番号・・・みたいだな」

そこに書いてある市外局番がこの辺りのものでないことから、
春原の実家の番号であると思われる。
もしくは、実家の周辺にあ病院のものか…

「しかし・・・」

電話番号十桁で繋がる所に春原の実家があるところが驚きだ。

「・・・何かしらの役に立つかもしれない・・・かな?」

…まあ、そんなことあるわけないと思うがな。




夕方になろうかという時、春原がやってきた。

「おはよへぶしっ!?」

何となく腹がたったので、ストレートをお見舞いした。
おお、顔が梅干し食べた口みたいに…

(あっ、しまった! つい殴っちまった
俺も杏と智代のこと言えないな・・・)

自分で整形への道を作っちゃ駄目だろ。

「って何でいきなり殴るんすかね!?」
「これには深い訳があるんだ
俺が昼から労働に勤しんでいたのに、
さわやかに挨拶しようとしやがったからつい・・・な?」
「つい・・・で殴らないでよね!?
大体労働っていったい何してたんスか?」

…パラッ

「ん? 何?」
「あからさまな無視しないでくださいね!?」
「今いい所だから話あとな」
「確実に今読み始めたばっかっすよね!?」

ドンドンドン!

ガチャッ

「うるせーんだよ!!」
「ひ、ひぃーーっ!!」

ラグビー部が入って来た。
さすが春原…その顔、最高だぜ!

「叫んでたのはお前か・・・」
「ちちちちちがうのであるでです」
「日本語になってないから、とりあえず落ち着けな」

もちろん、落ち着いても結果は変わらないんだがな。

「最近春原が騒がなくなってようやく静かに過ごせると思ってたんだが・・・
どうやら俺達に安息は無いみたいだな」

そういいながらとても嬉しそうな顔をしている。
あと、部屋の外には他に数名ほど居るみたいだ。

「岡崎・・・俺達とちょっとあっちで語ろうぜ、もちろん拳でな」
「え、遠慮しときます」
「遠慮すんな」

ガシッ!

「岡崎・・・」
「す、春原・・・」

最後の希望と言わんばかりな顔で俺を見ている。
俺は勿論、人として当然の行動をとった。

「・・・必ず生きて戻ってこいよ!」

ハンカチを目にあてながら言う。

「そんな言葉いりませんから!?
しかも明らかに嘘泣きですよね!?
それが人の取る行動っすか!?」

ちっ、人の心を読むなよ。
それにしてもナイスな三連コンボ突っ込みだな。

「あんた今更―――」
「岡崎、行くぞ・・・」

春原は何かを言おうとしたが、ラグビー部はお構いなく連行していく。

「ちょっ、ちょっと待って・・・
う・・・・・・うわあああああぁぁぁぁぁ――――っ!!!

春原の叫びが小さくなっていく。

(春原・・・お前、最高に輝いていたぜ・・・)

せめてもの情けに胸の前に十字架を刻んでおいた。




10分後…

「無事だったみたいだな」
「・・・オカゲサマデネ・・・」

生還してきたその姿はボロ雑巾のようだった。

「ってそれじゃーボロ雑巾に失礼だよな〜」
「それってどういう意味っすか!?」
「気にするな、あとあんまり叫ぶとまたラグビー部が来るぞ」

それを聞いて縮こまる春原。

「お前、相変わらずだな」
「あんたにあの辛さは理解できないっすよ
あんなの受けたら誰だってこうなりますよ」

そんなもの受けるのはお前だけ!と言いかけてその言葉を飲み込んだ。
あまり追い打ちをかけるのはほんのちょっっっっっぴり気の毒だしな。

「久々に来てこんな仕打ちを受けるなんて・・・」
「それがお前の夢さ!」
「絶っっっ対に違いますからね!?」

ドンッ!!

『静かにしやがれっ!!』
「ひ、ひぃっ!」
「とりあえず死にたくなかったら静かに過ごせよ」
「あんた鬼っすね!?」
「・・・お前今更気付いたのか?」

あーっ、春原弄りもそろそろ疲れてきたな。

「お前の相手も疲れるなー
つう訳で俺は寝る」
「どういう意味っすかね!?」
「まあ、ほんのちょっとだけ冗談だったんだが・・・」
「ほとんど本気っすか!?」

前言撤回。
こいつはいじってて飽きないな。
あ、せっかくだしあの電話番号のこと聞いてみるか。

「そういえば、掃除してたらこんなもの出てきたんだが・・・何処の電話番号なんだ?」

そういいながら、さっき見つけた電話番号の書かれたメモを見せた。

「これは僕の実家の番号だね」
「やはりそうだったのか・・・」

思っていたとおりだった。
そうなると、一つ気になることがあった。

「そういえば、何でお前、実家の電話番号なんてメモってるんだ?」

わざわざメモをとっているんだ。
とんでもない秘密でもあるのでは…

「自宅の電話番号って覚えれないからさ、
こうしてメモしておけば忘れても安心だと思ってさ」

何の秘密も無かった。
こいつの記憶力の皆無っぷりが改めて分かっただけだった。
それ以前に自宅の電話番号くらい暗記しとけよ。

「でもこんなメモの存在なんて今の今まで忘れてたよ」
「それはつまり・・・」
「ここずっと、こっちから連絡なんてしてないよ」
「とんだ親不孝もんだな」

まあ、俺が家族の事なんて言ってもしょうがないんだがな。

「よしっ、早速今から連絡してみよう!」

ガッシャ―――ッン!!

「?どうしたんだ?そんなに壮大にずっころんで」
「あんたがとんでもないことを言い出したからでしょ!
大体連絡はしてないけど、向こうからはたまに連絡きてるからいいんだよ
それに以前、芽衣が来たじゃんか!
だから、連絡なんてしなくていいんだよ!」

春原は何やら必死になって阻止しようとしている。

「お前の言いたい分かってるって・・・
連絡しろって事だろ?」
「何でそんな芸人的な解釈するんすか!?」
「お前芸人だから、『するな=してくれ』ってことだろ」
「芸人になった記憶はないですからね!?
って何処に電話しようとしてるんすか!?
あんたいつの間に携帯持ってたんすか!?
そんなことより、うちにだけは掛けたら駄目っすから!」

そんな春原のマシンガン突っ込みを尻目に
春原の実家に電話していた。

『もしもし、春原です』

繋がった!
どうやら出たのは芽衣ちゃんみたいだ。

「おい、繋がったみたいだぞ」
「ってホントにかけたんすか!」
「まあ、気付いたら指が勝手に・・・な」
「明らかに確信犯だったよね!」

『・・・・・・もしもし?』

おっと、これ以上待たすとただの無言電話と思われてしまう。

「あ、俺だけど」
「・・・誰ですか?」

春原陽平、実の妹に認知されず。
一応声は春原のままなので大丈夫だろう。
ちなみに春原は諦めたのだろうか、静かにしている。

「お前のおにいちゃん、春原陽平だ」
『・・・・・・』

あれ、反応が無くなった。もしかしてバレたのか。

「あの〜芽衣――――」
『うちにおにいちゃんなんていませんので!』

ガチャッ!

ツー、ツー、ツー…

「「・・・・・・」」

電話の切れた音だけがむなしく響いている。

「お前の存在、完全に否定されたな・・・
やっぱりお前って・・・いやこれ以上は可哀相だよな」

そういいながら春原の肩に手をあてた。

「そんな哀れむような顔で見ないで欲しいね!?」
「いやそういうことは分かってたんだが、いざ知ると・・・な・・・
何だか涙が出てきちゃうよ・・・」
「そんな涙はすぐに枯れてほしいっすよ!」

そろそろ悲しみごっこも飽きてきたな。

「ではもう一回かけてみよう」
「もう勘弁してくださいよ・・・」

うわ、マジ泣きだ!

「でもこのままだとお前ほんとに存在否定されたままになるぞ
そうなったら、いつの間にか実家からの送金も無くなって・・・
最終的にお前はのたれ死ぬことになるぞ」
「そ、それは一大事だね!」

まあ、現時点ではそれは俺なんだがな。

というわけで再び春原家に電話をした。

『・・・もしもし』

再び電話に出たのは芽衣ちゃんだった。
先ほどの電話があったためか、かなり慎重な言い方だった。

「もしもし、陽平だけど・・・」
『・・・・・・おにいちゃん?』
「ああ、というかさっき思いっきり切られたからちょっとショックだったぞ」

内心は大爆笑だったけどな。

『じゃあさっきの電話って・・・』
「正真正銘、俺がかけた電話だ」
『そ、そうだったんだ・・・
おにいちゃんが電話なんてかけてきたことなんて無かったからつい・・・』
「そ、そうだったな・・・」

「・・・やっぱりさっきのはお前の普段の行動が招いた結果だったみたいだぞ」
「かける理由が無いからかけなかっただけですよ」
「だからお前は実の妹?からも存在を否定されるんだよ」
「そりゃあそうですけど・・・って『?』いらないよね!?」

「おにいちゃん誰かいるの?」

いかん、また芽衣ちゃんを放置してしまった。

「ああ、岡崎が横にいるだけだ」
「えっ、ホントですか!
じゃあ変わってもらってよ」

明らかに期待をこめた発言だった。
しかし、俺個人としては変わりたくない。

(だってな・・・)

今の俺はすなわち春原だ。
こんなやつにかわったら、俺の評価が暴落してしまう。
だが、ここで変わらないのも不自然だし…

「あ、やっぱり変わらなくていいよ」
「?いいのか?」
「・・・・・・」

何か芽衣ちゃんが無言になっている。
どうしたのだろう?

「芽―――」
「おにいちゃん!」
「な、何だ」

唐突に発言を遮られたので、驚いてしまった。

「今おにいちゃんって夏休みだよね!」
「そうだぞ、補習も無いしな・・・」
「それでいつも何やってるの?」
「そ、それはだな・・・」

考えてみる。

(・・・・・・・・・)

……思考遮断!

「ま、まあ色々だよ」
「・・・どうせ一日家にいるだけの生活してるんでしょ」

完璧な返答に言葉も出ない。

「やっぱりそうだと思ったよ」
「ううっ・・・こんな不憫な兄で申し訳ない
今からシベリアに言ってくるよ」
「そんなこと今更だと思うよ」

今更だったのか、すげー不憫。
しかも、後半のボケはスルーされた。
これが春原の運命なのか。

「じゃあわたしがお盆になったらそっちに行ってあげるね」
「別に来なくていいって」
「だったらおにいちゃん、帰ってきてよ」
「そ、それは無理だ」

色んな事情で。

「だからかわりにわたしが行くんだよ
それにわたしが行きたいから行くの
だからお盆までには部屋の整理くらいしておいてよ・・・
それじゃあね、おにいちゃん!」

プツッ

ツー、ツー、ツー…

最後の方は一気にいって電話を切った。

「・・・それでどうなったんだよ?」
「芽衣ちゃんがお盆に来ることになった」
「ふぅ〜ん・・・ってそれとんでもなくやばい事でしょね!?」

春原は驚きの表情を浮かべていた。

「え、何でだ?」
「だって今僕達が入れ替わってること知らないんだぞ」

………もしかしてピンチ?

「それじゃあ、このままだと芽衣ちゃんに真実を知られてしまうのでは?」
「今更気付いたんすか!」

ぶっちゃけ今気付いた。

「くっ、俺としたことが一生の不覚を取ってしまったぜ
ヘタレに指摘されるまでそんな簡単なことに気付かないとは・・・」

これではもう他の人に顔向けできないぞ。
やはりシベリア行きか?

「そこが不覚なんすか!?」
「まあ適当にやればいいじゃないか?
バレたらバレたで何とかな―――」

そこまでいってある考えが浮かんだ。

(もし芽衣ちゃんに俺の正体を知られたら・・・)



 〜回想〜



「実は俺、岡崎朋也なんだよ・・・」
「そ、そんな・・・岡崎さんがおにいちゃんみたいにヘタレになっちゃったんですか」
「いや、俺がヘタレになったわけじゃ―――」
「でも、おにいちゃんがまともな姿になって良かったです」
「え、それってどういうこと?」
「岡崎さんは一生その姿でいてくださいね〜」
「え、ちょっと待ってくれよ芽衣ちゃん
しかも春原も連れてくなよ―――・・・・・・」



 〜回想終了〜



「ってその回想おかしいよね!?
いつ芽衣が僕のことヘタレって言ってましたか!」
「俺の想像ではよく言ってると思ったんだがな・・・」
「捏造はもうやめてくださいね!?」

しかし、このままでは現実になりえる話だ。
それだけは何としても避けなければならない。

「とりあえず、少しくらいは作戦を立てておくか」
「そうっすね」
「俺の人生のためにも!」
「僕はいいんですか!?」
「お前の人生なんか正直どうでもいいな」
「酷っ!」

といったものの、そんな大層な計画を立てれるわけでもなかったんで、
結局、大まかなことを気をつけることとかしか浮かばなかった。




「そういえば、杏と智代には説明とかしておくの?」
「う〜ん、あいつら忙しいし
ここは俺達だけで何とかすることにしよう
あいつらが絡むと、逆にややこしい事になる可能性もあるしな
あとは当日玉砕覚悟でいくしかないな・・・」




そしてあっという間に芽衣ちゃんがやってくる日になった。











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 杏「今回、あたしたち出番無かったわね」
 智代「まあ、『一応』あの2人が主役だからな」
 杏「今回の話は次回へのつなぎみたいな話ね」
 智代「また春原がラグビー部に連行されているな」
 杏「あれはあいつの特権よね」
 智代「私ならそんな特権は謹んで辞退したいな」
 杏「私も同意見ね」
 智代「そして、次回は春原の妹が登場するらしいな
   杏はあったことがあるか?」
 杏「私は見たこと無いのよね」
 智代「・・・で、私たちに次回出番あるのか?」
 杏「・・・・・・それは分からないわ」
 智代「もう、話も終盤に差し掛かってるらしいからな」
 杏「やっとこんなくだらない話から解放されるのね」
 智代「というわけで次回更新まで!」



 TK「では今回の後書き・・・ってもう終わりっすか!?」


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