「いよいよこの日が来てしまったか・・・」

世間はお盆休み、
この日、俺はある種の決戦の日を迎えていた。
俺と俺と…俺の運命を決める日が。

「僕は何処に行ったんだよ!?」
「ん〜・・・マリアナ海溝?」
「意味分かんないよ!」
「今まで黙ってたんだが・・・今のお前はスピリット体なんだよ!」
「そうだったんすか!
ってそれはありえませんよね!?」

さてと、娯楽はこれくらいにしておくか。

「それで・・・スプリクト体って何ですか?」

春原で遊ぶことは永遠に出来そうである。
今更だが、改めて確信した。











   朋也の春原な日々 第21話











ちなみに現在、寮にて春原と共にいる。
この響き、果てしなく嫌だな。

「そういえば・・・芽衣ちゃんはいつ到着するんだ?」
「僕が知るはずないじゃん、って知らないの?」
「ああ、来る日は知ってるんだが、時間までは聞いてないぞ」

確かに到着時間を知らないってのは不安要素だな。

「仕方ない・・・駅まで行ってそこで待ち伏せすることにしよう」

待ち伏せというのはいかがなもんかと思うが。

「僕は面倒だから、ここで待ってるよ」

そういって春原はゴロンと横になった。

「まあ、お前がいても邪魔なだけだしな・・・」
「『邪魔』って強調しないでくださいよね!?」

今日も春原の突っ込みは好調のようだ。

「では出陣してくるわ」

と何かを思い出したかのように、春原が近づいてきた。

「岡崎」
「何だ? って岡崎言うな!
他のやつにバレたら俺は死ねるぞ」
「だから小声で話してるんじゃないですか!」
「・・・でなんだ?」
「間違っても、芽衣のことを芽衣ちゃんって呼ぶんじゃないっすよ
そんな呼び方したら一発でバレるからね」
「芽衣ちゃんとか言うな、キモイから」
「キモイとか言わないでくださいよね!?
あと、芽衣には敬語とか使うなよ」

「ともかくお前の言いたい事は分かった
それだけは気をつけて行動しておく」

おっと最後に聞いておかないとな。

「最初の挨拶はケェ――――ッ!!だったか?」
「あんたそれわざとですよね!
普通に対応してくださいね!?」
「お前の普通ってこういう風だったろ?」
「世間の普通ですからね!」

お前の普通と世間の普通を一緒にしてはいけないという言葉はここでは飲み込んでおいた。









急いで駅に向かったが、その間に芽衣ちゃんには遭遇しなかった。
駅に着いたときも芽衣ちゃんはいないようだ。
幸いまだ到着していないみたいだった。

(・・・と、芽衣ちゃんをちゃん付けで呼ばないようにしないとな)

ほかの事はどうにでも誤魔化せるが、
このことだけはどうやっても誤魔化しようがない。
実の兄(仮)が妹をちゃん付けはさすがに問題だろう。

(今のうちに練習しておかないと
えーっと、芽衣、芽衣、芽衣、芽衣・・・)

心の中で呟き続けてみる。
どうもちゃん付けはしづらいな。

「おにいちゃん、こんなところで何ボーっとしてるの?」
「!めひぢゃ、来てたのか!」

いきなり声を掛けられたので名前がめちゃくちゃになってしまった。
しかも思わず、ちゃん付けになったよ。

「おにいちゃんは相変わらずなんだね、こんなところで奇声なんて上げて・・・
わたしが恥ずかしいんだから・・・」

奇声だったため、芽衣ちゃんには気付かれなかったみたいだ。
これは怪我の功名というやつか。

「そ、それは言いすぎだと思うぞ」
「これでも相当抑えているんだからね」

兄には容赦ないな、芽衣ちゃん。

「おにいちゃん、何でここにいるの?」
「ん、芽衣を迎えに着たんだぞ?」

ふぅ〜、何とか呼び捨てで呼べたぞ。
これなら何とかなるかな。
って芽衣ちゃん(心の中ではちゃん付け継続)がこっちを見ている。
しかも物凄く悲しそうな顔をしている。

「?どうしたんだ、芽衣」
「おにいちゃん・・・」
「何だ?」
「おにいちゃんがわたしのためにわざわざ駅まで来るなんて・・・
もしかしてもうすぐ死んじゃうんじゃない!」

春原…お前の妹はお前のこと、よく分かってるぞ。
思わず熱いものがこみ上げてきたよ。

「もしかして言い過ぎちゃった?そうだよね、
おにいちゃんに彼女が出来るくらいの確率で駅に来るよね!

それは春原に彼女が出来る確率が
果てしなく低い、むしろゼロであると言ってるも同然ではないのか?
さすが芽衣ちゃん、ホントによく分かってるよ!

「・・・おにいちゃんどうしたの? ボーっとして?」
「あ、ああ考え事してただけだ・・・よ」

むりやり語尾に『よ』をつけてみた。
そんな俺を見ながら、

「そういえばおにいちゃんはお昼食べた?」
「昼? まだだけど・・・芽衣ち、芽衣は?」
「わたしもまだ食べてないよ
ふ〜ん、おにいちゃんお昼まだだったんだ・・・
だったら外で食べていかない?」

芽衣ちゃんからそんな提案が来るなんて…
俺だったらこんな糞兄とはツーショットで飯なんて食いたくないぞ。
改めて芽衣ちゃんの性格のよさを知った。

「それでいいんじゃないか?」

特に断る理由も無いしな。
いちいち作ったりするのも…
と思ったが、俺いつも作って無いじゃん。
って芽衣ちゃんがめっちゃジト目で見てるんですけどね。

「あの〜・・・芽衣、何か俺の顔についてるのか?」

恐る恐る聞いてみる。

「だっていつものおにいちゃんなら、
『何で実の妹と二人で食事しないといけないんだよ!』って言うもん」

た、確かにあいつなら言いかねんな、いや言うな。

「それに前に電話掛けたときからずっと疑問に思ってたんだけど、
いつから自分のこと『俺』っていうようになったの?」

ぐっ、さすが芽衣ちゃん。
こんな愚兄のこともちゃんと観察しているなんて…

「実は岡崎のやつに『俺』って言ったほうがいいんじゃないか?
って言われたからそうしてみたんだよ
でも、実際言ってると、言いにくい時もあるから、僕に戻そうかな・・・」
「ふ〜ん、そうなんだ
まあ、一人称の呼び方はおにいちゃんの自由だからどっちでもいいんだけどね」

どうやら俺の説明に一定の理解を示してくれたみたいだ。
心の中でホッとする。

「んで何処で食うんだ?」
「う〜ん・・・」

しばらく考えて、

「ファミレスにしよ、おにいちゃん」







「全く・・・何でこんな暑い中を歩かないといけないのよ」

あたしは30℃を超える暑さの中、歩いていた。

「まさかエアコンが故障するなんて・・・」

家のほかの部屋で勉強をやることも考えたけど、
あたしのエアコン修理で騒がしくなりそうだったので、
図書館かどこかでやろうと思い、外に出たんだけど…

(やっぱり家でやってたほうがよかったかも・・・)

このままじゃ、図書館に着く前にへばっちゃうわよ。
何処かで休憩でもしようかしら。

「ん、あれは・・・?」

遠くから金髪の髪の男がやって来る。
おそらく、陽平(の姿をした朋也)であろう。

(ここはあいつに冷たい飲み物でも奢ってもらおうかしら・・・)

そう決断したら早速突撃しないとね。

「よ―――」

声を掛けようとしたけど、それは出来なかった。
朋也の隣には、見知らぬ女の子がいたからだ。

「だ、誰? あの子は・・・」

隣には青髪の女の子が並んでいた。
少し遠くからだったため、しっかりとは確認できなかったが、
おそらくは私たちより年齢は下なんだろう。

しかし、その女の子に私は全く見覚えがない。
一体どんな関係なんだろう。

「勉強なんてしている場合じゃないわよ
あの女の子の正体を一刻も早く知らないとね・・・」

あたしは図書館へ行く予定を変更し、二人の後を追跡することにした。






タッタッタッ・・・

私は走っていた。別に意味などは無い。
ただこの猛暑の中、ゆっくり歩いて帰るのは嫌だったからだ。

タッタッタッ・・・

それにしても暑過ぎる。
いや、走っているのだから仕方ないのだが…

「・・・ん、あれは杏ではないか?」

私の先に杏がいるのを見つけた。
しかし、何故かものすごく挙動不審というか、
何かを隠れて監視しているかのような振る舞いだった。
一つ間違えれば、ストーカーにも見えなくも無い。

私は杏に気付かれないように近づき、

「杏、こんなところで何をやってるんだ?」
「きゃあ!」

杏は背後からいきなり声を掛けられたためか、驚きの声を上げた。

「って智代じゃない・・・驚かさないでよ」
「驚かせてしまったか・・・それは申し訳ないことをした
それで何故あんな不審な行動をしていたのだ?」
「べ、別にあたしはそんな不審な行動なんてしてないわよっ」
「あれはどう見ても不審だったぞ・・・」
「あんたの目の錯覚よ、きっと」

錯覚ではない気がするのだが、
本人がそういうのならそういうことにしておこう。

「それで本当のところ、何をしていたのだ」

杏は思い出してかのように、

「そうよっ、あんたなんかにかまってる場合じゃなかったのよ」
「それは一体どういうことだ?」

その直後、杏の口から聞く前に答えが判明することとなった。

杏はある方向を見ていた。
その先には…

「朋也じゃないか」
「違うわよ、その隣よ」
「ん・・・隣にいるのは青髪だな・・・」
「そうよ、しかも女の子よ」
「そうか・・・って女の子だと!」

思わず大声を上げてしまった。
杏に手で口を塞がれてしまった。


『・・・どうしたの、おにいちゃん?』
『いや、何か聞き覚えのある声がしたんだが・・・』
『もしかしておにいちゃん、何かにとりつかれてるんじゃないの?』
『・・・・・・まあ、気のせいだよな』


「・・・・・・」
「・・・あんたね・・・危なく見つかる所じゃなかったのよ」

私の口を塞いでいた杏の手が離れる。

「すまなかった」
「まあ、幸い気付かれてはいないみたいだからいいけど」
「そうだな」

向こうの声は聞こえなかったものの、おそらくは見つかっていないだろう。
朋也たちはそのまま歩いている。

「しかし、あの女の子の正体を杏は知っているのか?」
「ううん、ちょっとあたしには分からないわ
だから、尾行して正体を探っていたのよ」

それであの不審な動きをしていたのか。

「ってこれ以上離れたら辛いわね
あたしはあの二人を追跡するわ」

そういって杏は歩き始めた。

「ちょっと待ってくれ、杏
私もついていくことにする」

その直後、私は杏を呼びとめ、そういった。

「・・・分かったわ
ただし、さっきみたいに気付かれそうな行動は避けてよ」
「むっ、それは最もだな
今後はあのようなことが無いように気をつける」

さっきのはあまりにインパクトが強かったから叫んでしまっただけで―――
と言おうとしたが、叫んだ事実があったので言わないことにした。

杏の後を追って朋也たちを追うことにした。







「ん〜、おいし〜」

芽衣ちゃんがきのこのスパゲティを美味しそうに食べている。
ちなみにその隣にはデザートのケーキも置いてある。
デザートまで食べれるとあって芽衣ちゃんはご満悦だ。

「まあ、それなりには・・・な」

一方、俺の前にはハンバーグとご飯が置いてあった。
それにしても…

(何か誰かに見られている気がするんだよな・・・)

食事を取る前からずっと何者かにつけられている気がしていた。
最初は単独だった気がするんだが、
途中から一人ではなくなった気がする。
と言ってもその方向を見る勇気は俺には無い。
見た瞬間、色々不味そうな気がするからだ。

そんな俺の気持ちを察したのか、

「お兄ちゃん、何か周りを気にしているけど・・・どうかしたの?」
「いや、何でもない」

そういえば、聞き忘れてたな…

「そういえば、何でいきなり来ることにしたんだ?」
「だって・・・せっかくの夏休みなのに、お父さん達は忙しくてどこにも連れてってもらえないし・・・
仕方ないから、おにいちゃんのところに遊びに来たんだよ」

そうだったのか…
ただ正直、タイミングが悪かった。

「そういえば、岡崎さんはいないの?」
「んっ、岡崎・・・」

と唐突にあいつのことを思い出した。

(しまった! 思わずいつも通り放置してたよ・・・)

今頃、腹ペコで萎れているのでは…
まあ、別にいいんだけどな。

「ああ、岡崎とは俺の部屋で待ち合わせしてるから・・・そろそろ行くか?」

芽衣ちゃんは頷いた。
そして俺と芽衣ちゃんはファミレスから出て行った。

(ホントは俺の名誉のため、会わせたくないんだけどな・・・)

あとは春原の良心に賭けるしか…

どう考えても絶望だった。
俺は自らの選択に後悔しまくった。







朋也と女の子が立ち上がった。

「杏、朋也たちが動き出したぞ」
「そうね、でもあんまり接近するのも問題よね・・・
ここからは慎重に行動しましょ」

そういいながら、あたし達は再び朋也たちの後をついていった。


朋也たちが向かっている先にあるのは…

「学校の寮よね・・・」
「ということは学校の寮に向かっているのか?
そうだとしたら・・・あの子は一体何者なんだ?」

あたしはある可能性を考えたけど…
いくらなんでもそれは無いわよね。

「こうなったら・・・直接聞いたほうがいいのではないか?」
「そうね・・・慎重に行動したいけど、正直尾行も飽きてきたのよ」

智代の積極策に同意する。
あと、本音に疲れてきたというのもある。
朋也たちの後を追っていったら思ったとおり、寮に着いた。

「あの二人も入っていったわね・・・」
「杏、どうする?」

智代が今後の行動について聞いてきた。
本来ならさすがにここからはプライバシーの問題があるし、立ち入らないほうがいいと思う。
でも…

「もし杏が行くと言うなら、私も付いていくぞ」
「そう・・・なら、特攻よ!」

あたしと智代は寮の中にある陽平の部屋に向かっていった。











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 芽衣「ようやく私が初登場です」
 朋也「更新自体も久々だしな・・・」
 陽平「僕の出番も少ないっすね」
 杏「あたしもそんなに多くないわよ」
 智代「私もだぞ」
 陽平「僕ってメインキャラの一人のはずなんですけど・・・
   今回さっぱり目立ってませんよ」
 朋也「そういえば、ひとつだけ気になったんだが・・・」
 陽平「何すか?」
 朋也「お前・・・・・・・誰?」
 陽平「そんなオチっすか!?」
 朋也「冗談だよ、芽衣ちゃんの『義理の』兄貴だろ?」
 陽平「義理って強調しなくていいですから!
   そもそも義理違いますから!」
 
 
 
 
 
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